ニビイロ−第十話−
※下に書いてあるのはト書きです。
※アドリブを入れるのは自由ですが、台詞の意味などは変えないでください。
※3番タイムなどに、自分の役の台詞とト書きだけでも良いので、ちゃんとチェックしてから演じてください。
※基本的に、色のついたセルは、ト書きです
フイゴ | 男 | 40代後半〜50代 「ホムラ」の一族の長 タタラの実父。粗野な言葉遣いや態度ではあるが、家族思いでのんびり者である。 大所帯のホムラ一族を纏め上げる男。人間ではないような巨体。 だが、担当する仕事はロウ付け。(本人曰く「隠居」) |
ヨク | 男 | 40代後半〜50代 「ハコビ/ソラ」一族の長 エンの父親。フイゴとは幼馴染で、よく似た性格をしてはいるが、 ヨクのほうがかなり短気であり、頑固で喧嘩っ早い。 工場内に響くような怒声でよくエンたちを怒っている。 |
フウ | 女 | エンの姉。13〜14歳。 穏やかで、少々大人しめではあるが、真の強い優しい姉。 ソラ族の中でも、ソラの力を使うのに長けている。 次期風の巫女候補でもあるぐらいの力と、美貌の持ち主。 |
エータ | 男 | エンの兄 中学2、3年生ぐらい。 見た目は、エンの生き写しのようだが、性格はエン以上に活発。 弟と妹を大事にしている。ソラ族の期待の若者であった。 |
ヅチ | 男 | タタラの兄 エータと同い年。 エータの親友。タタラにとっては、大好きな兄。 ホムラの頭領の息子という名に恥じない実力の持ち主。 性格的には、同級生のエータの前では多少優等生に見えるが、 冒険心や好奇心が旺盛な少年。 |
幼エン | 男 | 幼いエン タタラにお兄ちゃんぶりたい、やんちゃな男の子。 いつか、兄や父のように立派なソラの男になりたいらしい。 |
幼タタラ | 女 | 幼いタタラ この頃はまだ、鉄を扱うことも無く、両目とも健在。 ちょっと内気な女の子 |
チクロ | 男 | フイゴの長男 イガタ、ヅチ、タタラの兄。 年齢で言えば高校3年生〜二十歳前後。 いろいろとめんどくさがりでマイペースな性格ではあるが、 ホムラ一族の長男と言う事に誇りと責任を持っており、堅実に物事を考えている。 |
イガタ | 男 | フイゴの次男 タタラとヅチの兄。チクロの弟。 年齢で言えば高校1、2年生ぐらい。 兄弟で一番しっかりしている。(父いわく、性格は母似) 父や兄を支えるような職人になりたいと、日夜努力を続けている。 |
ゲンコ | 男 | タテシ一族の若者。 当時まだ二十歳前後。 チクロの親友であり、よきホムラの理解者。むしろ、フイゴ一家の一員のようなもの。 |
時代・世界観 舞台背景など |
高度科学(高度工学?)と魔法がまだ共存している時代。 舞台となる、工業都市・ニビは、世界でも有数の工業都市。 そこで作られるものは、高評価を得ていた。 その街で暮らすものたちは、ほとんどの職業ごとに、一族に分かれている。 |
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ホムラ一族 | フイゴ率いる炎の一族。 炎を扱う事に長けており、またそれを生業とする一族。 フイゴの娘、タタラが頭領代理。 |
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ハコビ/ソラ一族 | ヨク率いる空の一族。 風を読む事に長けている。空輸、または運搬艇を使った資材運びを 生業としている。 ヨクの息子、エンは、若手のまとめ役。 |
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タテシ一族 | ゲンコの一族。 大工仕事や建設、いわゆる「建てる事」を生業とする一族。 ゲンコは、この中でも期待されている若手。 |
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ソラフネ | 飛行機のようなもの。空を飛ぶ船。 ニビの街では、これや準ずる物を盛んに作っている。 兵器等を積み込んだ"戦艦”も作られる。 |
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ソライス (エアースクーター) |
ソラフネと同じ構造で、空を走る。 見た目はバイクのタイヤが無いバージョンみたいなもの。 エンもよく乗っている。 |
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ツクラレ | いわゆるサイボーグ。 四肢を亡くした者は、その代わりに機械義肢をつけられるが、 痛みを取り払い、すぐに機械義肢を元の身体のように動かせる代償として、記憶を奪う。 |
ナレ | 「ホムラ一族の長男の旅立ちの決意、そしてソラの一族の長女の決意。 様々な思いが行き交いながらも、何事も無く、平和に時は流れていた。 あれから二ヵ月半、ホムラ一族の長男・チクロが旅に出て、およそ二ヶ月が過ぎた」 |
−例のガラクタ置き場− エンとタタラは無邪気に走り回って遊んでいる。 そして、それを見守りながら、フウは本を読み、その横でヅチはぼんやりと空を眺めている。 エータは研修を終えて職場のほうに行ってしまい、一緒に居る時間が減ったのだ。 |
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フウ | 「ヅチ、あんまりボウッとしてると、風の神様に魂抜かれるわよ?」 |
ヅチ | 「…え?」 |
フウ | 「ソラの一族の言い伝えよ」 |
クスッと笑う。ヅチがそこまでぼんやりしていることは、稀だからだ。 | |
ヅチ | 「…はぁ…エータはもう、仕事してるのに…僕は親父殿に怒られてばかりだ…」 |
フウ | 「あら、おじ様はあなたのこと、本当に褒めてらしてよ? この間あった時だって…」 |
ヅチ | 「でもさぁ…僕はこのままで本当にいいんだろうか…。 チクロ兄は旅立ってしまったし…それでイガタ兄はもっと働くようになって…」 |
兄弟の中で、自分だけが取り残されたような気分になっている。 | |
フウ | 「あら、でもあなたはタタラの良いお兄ちゃんじゃないの」 |
ヅチ | 「僕は…自分自身が何をしたらいいか、全然解らないんだ」 |
フウ | 「あなたには、たくさんやる事があるじゃないの。 見えていないだけだわ。あなた自身が気付かなければ、時間はすぐに過ぎてしまうものよ」 |
ヅチ | 「たとえば?」 |
フウ | 「タタラの面倒、お兄様たちの分までちゃんと見ること。 あとは、一人前のホムラの男になること…もっと勉強して、もっと大人になる事…あとは…」 |
ヅチ | 「後は…僕、フウを迎えに行くよ。大人になって、ソライスにうまく乗れるようになって」 |
フウ | 「……」 |
ヅチ | 「フウは僕のお嫁さんになる人だから」 |
ナレ | 「ソラの一族の娘、フウ。 あと数日後には、風の民の神殿で、『風神の花嫁』となってしまう身。 それを迎えに行くのは、果たして、誰の役目なのか…」 |
ナレ | 「その頃、ニビの街の南西にあるトドガタケ山の裾野。トドガタケ平原。 静かに…息を潜めて向かってくる大隊があった…それは、東国・リューモウの軍隊である。 当時リューモウと、西国アセキハは、北国ロギザをどちらが侵略するか…と言う戦争をしていた。 そして、アセキハはその頃、ニビの街にソラフネを始めとする、多くの兵器を発注しており、 兵力が敵軍に備わる前に、その大元であるニビの街を破壊するのが目的だ」 |
1メートルほどに伸びた草むらに身を隠しながら、黒装束の集団が、ジリジリとニビの街に向かって動いている。 | |
ニビの工場内、第一資材置き場。 地下にある資材置き場である。広さは約700u。 天井二箇所に大きな、直径20メートルほどの穴が開いている。 そこから運搬艇が行き来しているここには、工場内で使われる資材が置かれている。 |
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ヨク | 「よーし、エータ、次はこれを運んどけ!」 |
エータ | 「はいよ!」 |
研修が終わり、晴れて仕事を始められたのが、嬉しい。 鉄の原材料である、鉄鉱石が山盛りにされた、高さ1メートル、幅1.5メートル、横75センチほどの籠を、 運搬艇の、フォークリフトのツメに似た部分を突き刺して持ち上げる。(これは慎重な作業) |
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エータ | 「……と、これはどこだっけ、親父」 |
ヨク | 「第一製鉄所だ、フイゴんとこに持ってけ」 |
エータ | 「解った!」 |
急いで運搬艇を急浮上させる。 | |
ヨク | 「安全確認を怠るな!いいか、ぜってぇ気ぃ抜くんじゃねぇぞ!!」 |
晴れて息子が現場に出る事ができたのは嬉しいが、心配で気が気で無い。 | |
エータ | 「解ってるって!」 |
下で父が言う事に、答えながらあがって行くが、見上げた空がいつもと違うことに気がつく。 | |
エータ | 「…!親父…!」 |
ヨク | 「どうした」 |
引き返してきた息子の表情が、いつもと違う。 | |
エータ | 「……空が」 |
ヨク | 「…あぁ…なんか居るな…街の外に大勢」 |
エータ | 「…知らせてきて良いか?…ババ様が皆に知らせてるかも知れねぇけど」 |
ヨク | 「あぁ、行って来い…こりゃ厄介な事になりそうだ」 |
第一製鉄所 ホムラの者たちは、鉄を打ち続けている。 一番奥にある、一際大きな炉の前、フイゴが鉄を打っている。 そこから少し離れた炉の前で、イガタは父の様子を見ている。 |
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ナレ | 「大量の汗を流しながらも、真剣な眼差しで鉄を打ち続けるフイゴの顔は、炎に照らされて、赤い。 ホムラの男達ががなり声で歌う鉄打ちの唄と、炎の燃え盛る音、鉄を打つ音、蒸気が噴出す音などが流れる中、 イガタはずっと、父の姿を見ていた。」 |
フイゴ | 「どうしたぁ……」 |
息子の視線には気づいているが、顔を向ける事無く、延々と打っている。 | |
イガタ | 「…いや」 |
フイゴ | 「一休みするんだったら、あっちに母ちゃんの弁当があるぞ」 |
イガタ | 「なぁ、親父殿」 |
フイゴ | 「ん?なんだぁ?」 |
イガタ | 「……なんでもない」 |
やっとでこちらを見た父に、何故かほっとしたような笑顔を浮かべて、イガタは再び槌を手にする。 | |
フイゴ | 「なんだ、まぁ無理はすんなよ」 |
イガタ | 「解ってる…」 |
〜回想〜 チクロが旅立つ前の夜。 チクロの部屋で、イガタは兄と最後の一時を、酒を酌み交わしながら過ごしている。 |
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チクロ | 「イガタよぉ」 |
イガタ | 「なんだ、兄様」 |
チクロ | 「俺が居なくなったら、後を頼むぜ。お前が頼りなんだ」 |
イガタ | 「……あぁ」 |
チクロ | 「ヅチやタタラの面倒もそうだが……何より俺が心配してるのは、親父殿のことだ」 |
イガタ | 「……」 |
チクロ | 「親父殿は、ホムラの誇りだ。俺が尊敬できる、この世でたった一人の父親だ。だがな… 親父はたまに、仕事に熱中する余りに、鉄に吸い込まれそうになるんだ」 |
イガタ | 「……鉄に?」 |
チクロ | 「…親父ほど、ホムラの神に愛された男はいねぇんだとさ。 鉄打ってる時には、たまに声を掛けてやれ。 ホムラの守り神は、時として俺達を襲う、祟り神ともなる…その事を忘れるなよ」 |
〜回想終了〜 | |
イガタ (心の声) |
『兄様………親父殿は……』 |
父の背中を見つめる。 父の背中は広く、たくましい。その背中が、イガタ…ホムラ四兄弟をはじめ、一族にとっては頼もしい存在ではある…が…。 その背中を見ていると、兄の言葉が心に響き、胸を締め付ける。 |
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ナレ | 「再びガラクタ置き場には、もう、リューモウの軍が襲い掛かっている。 砲弾や、銃撃の嵐の中、逸早く異変を感じたフウが、結界を張って、子供たちを守っていた」 |
フウ | 「我等を守りし、大いなる風の神…英雄・ストリよ…今こそ我に、愛しき者達を守る力を与え給え…」 |
ナレ | 「ゴォッと一陣の竜巻が、兵士達を空へと巻き上げて行く。 だが、兵士たちは、後から後からどこかからまるで蛆虫の大群のように湧き出てくる」 |
ヅチ | 「っ…!フウ!ここはもう逃げよう!!」 |
フウ | 「逃げるわけには行かないわ!私には、この子たちを守る義務がある…!!」 |
ヅチ | 「だけど…だけどそれじゃぁ君が死んでしまうじゃないか!!」 |
フウ | 「決まってなんて居ないわ!!死ぬなんて…誰が決めたの?!」 |
幼エン | 「姉ちゃん!怖いよぉ!」 |
タタラと共に、ヅチに抱えられながら、姉の背中に叫ぶ。 | |
フウ | 「エン、いい子だから…もうちょっと我慢していて。お姉ちゃん、頑張るから…」 |
いつもの、優しい声に戻って。弟たちには怖い思いをさせたくない。 | |
ナレ | 「詠唱無しで、風の巫女候補は力を発動させていく。 この街を制圧するためだけに、メガトン級のソラフネと、リクフネ(戦車)がここまできていた。 少女は一人、戦っていた。 『この街を守るのは、風の巫女としての使命』…『幼い子供らを守るのは、姉である自分の使命』、 そして『愛するヅチを守るのも、自分の使命』と自らに言い聞かせながら…」 |
幼タタラ | 「兄様っ…フウ姉さまが死んじゃう!」 |
ヅチ | 「逃げよう!フウ!」 |
フウ | 「駄目!私が逃げてしまったら…この人たちを街に行かせてしまう!そんな事したら、父様たちの仕事が!!」 |
ナレ | 「何としてでもここで食い止めようとするが、敵の数が圧倒的に多すぎる上に、 例え、強大な力を持ち、呪文を知っていたとしても、実戦で使うのは、少女にとっては初めての事。 不利な状況だと言うのは、明らかなことであった」 |
フウ | 「キャァァァァ!!!」 |
ナレ | 「一瞬の隙を付いて、敵の砲弾が、子供たちの傍に落ちる。 跳ね返された魔力は、彼女に襲いかかる」 |
ヅチ | 「くっ…ホムラを守りし、偉大なる炎の神・プラーマよ…我にその通力を与えたまえ…クリークヌチ・プラーミャ!!」 |
ナレ | 「少年が使ったのは、不慣れな呪文。 この街の子供たちは、護身用に、ある程度の年齢になると、 それぞれの一族の持つ力を利用してしか使えない、一族独自の呪文を教わる。 炎の柱が、九本、ガラクタ置き場の地面から天を突くように立ちのぼる」 |
エータ | 「フウ!ヅチ!エン!タタラ!無事か?!」 |
街はもう、その頃には、ソラフネなどがガラクタ置き場に来ているのがバレていて、大騒ぎになっている。 他の者たちに退却の促した後、エータはここに大急ぎできた。 |
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ヅチ | 「エータ!!お願い!エンとタタラ…フウだけでもつれて逃げて!!」 |
エータ | 「ヅチ!お前はどうするんだよ!?」 |
ヅチ | 「僕はここで…こいつ等を食い止める!フウがやりたかった事、代わりに僕がやる!!」 |
エンとタタラを、エータの運搬艇の荷台に乗せて、走り出す。 | |
エータ | 「待て!無理だ!お前には無理だ!!」 |
幼エン | 「兄ちゃん!姉ちゃんがっ…姉ちゃんがぁ!」 |
幼いエンが指差した方向では、姉に向けて機関銃が発射されようとしているまさにその時。 | |
エータ | 「フウーーーーーーーーーー!!」 |
(SE)機関銃の音 | |
フウ | 「兄様!エンを…エンを連れて逃げてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」 |
機関銃の銃弾の雨が、彼女を襲う。 | |
ヅチ | 「フウ!!」 |
炎の壁を出して、倒れた彼女の体を守る。 | |
ナレ | 「ヅチの使った炎により、ガラクタ置き場は火の海に包まれていた。 その炎や煙のせいで、エータは二人を見失っていた」 |
エータ | 「フウ!ヅチ!早くこっちにこい!!逃げるぞ!!」 |
ヅチ | 「だめだよ、フウが…フウを今動かしちゃったら!!」 |
フウ | 「…良いの…ヅチ、逃げて」 |
ヅチ | 「ダメだよ…フウを置いて逃げるなんて…僕には出来ないよ…」 |
フウ | 「お願いだから…あなたは生きて居なきゃダメ…足が亡くなろうとも、手が亡くなろうとも…あなたは生きて居なければだめ… 私たちは……この、ニビの街の子なんだから……」 |
ヅチ | 「そんなの……」 |
涙でもう、フウの顔がぼやけてしまっている。 だが、フウは、なぜか幸せそうに笑っている。 フウを安全なところに隠し、涙をぬぐうと、敵に向かって走り出す。 |
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エータの運搬艇は、火の海の上を心許無げに漂っている。 その間にも、リューモウの軍隊は、街を目指して進軍して行く。 |
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エータ | 「ヅチーーーーーー!!フウーーーーー!!どこに居る!!返事しろ!!」 |
幼エン | 「お姉ちゃん、お姉ちゃん…」 |
姉が死んでしまったと思っているのと、この状況が怖くて泣いている。 まだ幼かったエンには、泣くことしか出来なかった。 |
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エータ | 「泣くな!エン!お前は男だろうが!!」 |
幼エン | 「でもぉ…!姉ちゃんがっ…姉ちゃんがぁぁ」 |
エータ | 「馬鹿!!お前は父ちゃんみたいなソラの男になりたいんだろ?何そんなに泣いてんだよ!!」 |
幼エン | 「…」 |
ナレ | 「幼き者達の必死の抵抗にも容赦せず、リューモウのソラフネは砲撃を開始する」 |
幼タタラ | 「ヅチ兄様ぁ……ヅチ兄様ぁぁぁ!」 |
少し、運搬艇の高度が下がったのを見計らって、兄の元に飛び降りていく。 | |
エータ | 「待て!タタラ!そっちにいっちゃダメだ!!」 |
(SE)砲撃の音 | |
ヅチ | 「タタラ!!こっちにきちゃダメだよ!エータのところに戻って!!」 |
幼タタラ | 「やー!兄様と一緒が良い!!」 |
ヅチ | 「我侭言わないで!!」 |
ナレ | 「その瞬間、二人の近くに砲弾が落ちる」 |
(SE)砲弾の着弾した音 | |
ヅチ | 「危ない!!」 |
咄嗟に、タタラの上に覆いかぶさって守ろうとするが、その上に、衝撃で周りの瓦礫が降って来て、二人を埋めてしまう。 | |
エータ | 「ヅチーーーーーーーーーー!!タタラーーーーーーーーーーー!!」 |
と、そこに、ヨクの運搬艇が、護身用の銃を発射しながら飛んでくる。 少し離れた所から通信機にて、声をかける。 |
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ヨク | 『エータ!!』 |
エータ | 「親父ぃ!!フウが…フウがぁぁぁ!!」 |
ヨクを見た瞬間に、安心したのか、緊張の糸が切れてしまい、泣いてしまう。 | |
ヨク | 『話は後で聞く!!エータ!こっちに来い!!』 |
エータ | 「親父ぃ…!」 |
泣き虫では無くなったと言うが、本質的な部分は、人間は変わるものではない。 だから、エータは本来は泣き虫のままのエータ。 通信機に向かって泣いている。 |
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ヨク | 『泣くのは後だ!ヅチとタタラはどうした?!』 |
エータ | 「フウが…フウが、街を守るって…だからヅチもそれを手伝って…タタラはヅチを追っかけてって…二人は今、瓦礫の下に……」 |
ヨク | 『フウは!?』 |
エータ | 「さっきまで頑張ってたんだ…だけど…だけど、あいつ等機関砲を打って来やがって…」 |
エータが指差した方向、瓦礫の影に、フウが寝かされている。 それを見て、ヨクは一瞬絶望した表情になるが、すぐに持ち直す。 |
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ヨク | 『フウを拾ってくる…もう少し行った所に離れとけ…俺もすぐ行く!!いったん避難するぞ!』 |
エータ | 「解った!」 |
ヨクはフウを迎えに行く。 | |
ヨク | 「…フウ」 |
運搬艇から降り、変わり果てた姿の愛娘に声をかける。 | |
フウ | 「……とう…さ…ま…」 |
やっと父が来てくれた、安心感。 | |
ヨク | 「…頑張ったな…」 |
フウ | 「…わた…しは…とうぜんの事を……した、まで…」 |
ヨク | 「もういい、しゃべるな…今、医者に連れてってやるからなっ…しゃべるなよ?!なっ」 |
自分の上着をかけてやり、大事に抱えて運搬艇の荷台に載せる。 | |
フウ | 「父さ…ま…エンに……ねえちゃんは……エンを守れてうれしいって…だから、もう泣かないでって……」 |
最後の力を振り絞って、父に伝える。姉として、出来る事の最期の言葉。 | |
ヨク | 「……」 |
涙をこらえて、何度も頷く。 | |
フウ | 「父様…母様……ありがと……ございます…」 |
いつものように、幸せそうな笑みを浮かべて、フウは神の元に旅立った。 | |
ヨク | 「……」 |
項垂れるが、そうもしてられないので、運搬艇を浮かせて、エータに指示した場所に急ぐ。 | |
ナレ | 「ソラの父、ヨクが、息子と約束した場所へ向かうと、そこも戦場と化していた。 敵の機関砲などを避けて飛びながら、何とかエータは持ちこたえていた」 |
エータ | 「親父ぃ!!逃げろ!!逃げてくれ!!」 |
こちらに飛んでくる父の姿を確認して、少しうれしそうになるが、そうもしていられない。 | |
ヨク | 「こっちに来い!俺が誘導するとおりに飛べ!!」 |
エータ | 「エンをそっちに運ぶ!もうこいつの燃料ももたねぇ!!」 |
ナレ | 「エータの運搬艇は、もう燃料が限界に来ていた。と、言うのも護身用の銃を撃ちすぎたためである。 フラフラと、空中を漂いながら、慎重に父の元に近づいていく」 |
ヨク | 「もう少しだ!」 |
ナレ | 「あともう少し…あともう少しで辿り着く…と、その時だ」 |
(SE)機関砲の音 | |
エータ | 「ぐっ…」 |
ナレ | 「無情にも、ソラの少年の体を、機関砲が貫いた」 |
幼エン | 「兄ちゃん!!」 |
ヨク | 「エータ!!」 |
ナレ | 「胸を貫かれた少年は、気力だけで片手で操縦桿を、もう片手には、弟を抱いて、父の元まで進む」 |
幼エン | 「兄ちゃん…?兄ちゃん、血ぃ垂れてるよ…兄ちゃん、血が止まらないよ…」 |
兄の体から流れる血が、自分にもかかって来る。 体温を失いつつある兄の身体…死の恐怖が、幼いエンを襲う。 |
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エータ | 「…もうすぐだ…もうすぐだからな、エン…」 |
幼エン | 「兄ちゃん、血が出てるよっ…兄ちゃん」 |
エータ | 「大丈夫だ、兄ちゃんは不死身なんだ。なんたって、エンの…兄ちゃんなんだから」 |
幼エン | 「やだよ…姉ちゃんもう、いないのに……兄ちゃんも居なくなったらやだよ…やだよぉ…」 |
エータ | 「泣くな!…な、エン、泣くなよ。ソラの男は泣き虫じゃダメなんだぞ」 |
やたら兄ぶって、言い聞かせるように。 | |
幼エン | 「やだよぉ、兄ちゃん…」 |
ナレ | 「最期の力を振り絞って、ようやく少年たちを載せた運搬艇は、父の元まで辿り着く」 |
ヨク | 「…エータ…よく、頑張ったな…」 |
エータ | 「…親父、エンを頼む……」 |
ナレ | 「少年は、最期の力を振り絞り、弟を父に渡した。 それが終わると、完全に力尽きた少年と、短い間ではあったが幼い主に尽くした運搬艇は、地面へと落ちて行く」 |
ヨク | 「…っ…」 |
愛娘と長男を一度に失った悲しみ。 だが、今は悲しんで居る暇はない。 |
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ヨク | 「…エン、しっかり掴まってろよ…」 |
幼エン | 「…うん!」 |
ナレ | 「街に向かいかけたその時、彼らの前に、2台のソライスが現れる」 |
チクロ | 「ソラのおやっさん!どうしたんだ、これ…」 |
ナレ | 「旅に出ていたはずのチクロだった。 その横には、ゲンコも居た。街の状況を、ゲンコが伝えると、チクロは大急ぎで戻ってきたのだろう」 |
ヨク | 「チクロ…」 |
チクロ | 「ヅチは…タタラは…?!親父たちは無事なのか?!」 |
ヨク | 「それはわからねぇ…だが…ヅチとタタラは…瓦礫の下だ…」 |
チクロ | 「…フウとエータは…」 |
ヨク | 「……」 |
首を横に振る。チクロは、地上を見て、運搬艇が一機墜落しているのと、ヨクの運搬艇の荷台に寝かされているフウを見て状況を把握する。 | |
チクロ | 「……ヅチとタタラを助けに行って来る」 |
ヨク | 「…ゲンコ、エンを頼んだぞ」 |
ゲンコ | 「はい…」 |
チクロ | 「いや、おやっさんは戻ってくれ。ここでみすみす死んでもらちゃぁ困る!」 |
ヨク | 「だが…」 |
チクロ | 「エンのそばに居てやってくれ!泣いてんじゃねぇか!!ここから七時の方向は、まだ侵攻されてねぇから …そっちまでエンを運んでやってくれ! おふくろたちを頼む!!行くぞゲン!!」 |
ゲンコ | 「あぁ!!」 |
ナレ | 「若者たちは、ソライスを駆ると、瓦礫に向かって飛んでいく。 ヨクはチクロの助言通りに運搬艇を走らせた。 …空から見下ろすニビの街は、変わり果て…今は戦場と化していた…」 |