ニビイロ−第九話−

※下に書いてあるのはト書きです。
※アドリブを入れるのは自由ですが、台詞の意味などは変えないでください。
※3番タイムなどに、自分の役の台詞とト書きだけでも良いので、ちゃんとチェックしてから演じてください。
※基本的に、色のついたセルは、ト書きです




フイゴ 40代後半〜50代 「ホムラ」の一族の長
タタラの実父。粗野な言葉遣いや態度ではあるが、家族思いでのんびり者である。
大所帯のホムラ一族を纏め上げる男。人間ではないような巨体。
だが、担当する仕事はロウ付け。(本人曰く「隠居」)
フウ エンの姉。13〜14歳。
穏やかで、少々大人しめではあるが、真の強い優しい姉。
ソラ族の中でも、ソラの力を使うのに長けている。
次期風の巫女候補でもあるぐらいの力と、美貌の持ち主。
エータ エンの兄 中学2、3年生ぐらい。
見た目は、エンの生き写しのようだが、性格はエン以上に活発。
弟と妹を大事にしている。ソラ族の期待の若者であった。
ヅチ タタラの兄 エータと同い年。
エータの親友。タタラにとっては、大好きな兄。
ホムラの頭領の息子という名に恥じない実力の持ち主。
性格的には、同級生のエータの前では多少優等生に見えるが、
冒険心や好奇心が旺盛な少年。
幼タタラ 幼いタタラ
この頃はまだ、鉄を扱うことも無く、両目とも健在。
ちょっと内気な女の子
チクロ フイゴの長男 イガタ、ヅチ、タタラの兄。
年齢で言えば高校3年生〜二十歳前後。
いろいろとめんどくさがりでマイペースな性格ではあるが、
ホムラ一族の長男と言う事に誇りと責任を持っており、堅実に物事を考えている。
イガタ フイゴの次男 タタラとヅチの兄。チクロの弟。
年齢で言えば高校1、2年生ぐらい。
兄弟で一番しっかりしている。(父いわく、性格は母似)
父や兄を支えるような職人になりたいと、日夜努力を続けている。
ゲンコ タテシ一族の若者。
当時まだ二十歳前後。
チクロの親友であり、よきホムラの理解者。むしろ、フイゴ一家の一員のようなもの。




時代・世界観
舞台背景など
高度科学(高度工学?)と魔法がまだ共存している時代。
舞台となる、工業都市・ニビは、世界でも有数の工業都市。
そこで作られるものは、高評価を得ていた。

その街で暮らすものたちは、ほとんどの職業ごとに、一族に分かれている。
ホムラ一族 フイゴ率いる炎の一族。
炎を扱う事に長けており、またそれを生業とする一族。
フイゴの娘、タタラが頭領代理。
ハコビ/ソラ一族 ヨク率いる空の一族。
風を読む事に長けている。空輸、または運搬艇を使った資材運びを
生業としている。
ヨクの息子、エンは、若手のまとめ役。
タテシ一族 ゲンコの一族。
大工仕事や建設、いわゆる「建てる事」を生業とする一族。
ゲンコは、この中でも期待されている若手。
ソラフネ 飛行機のようなもの。空を飛ぶ船。
ニビの街では、これや準ずる物を盛んに作っている。
兵器等を積み込んだ"戦艦”も作られる。
ソライス
(エアースクーター)
ソラフネと同じ構造で、空を走る。
見た目はバイクのタイヤが無いバージョンみたいなもの。
エンもよく乗っている。
ツクラレ いわゆるサイボーグ。
四肢を亡くした者は、その代わりに機械義肢をつけられるが、
痛みを取り払い、すぐに機械義肢を元の身体のように動かせる代償として、記憶を奪う。







ナレ 「十数年前、戦禍がニビの街に猛威を奮った。
 それは未だに、被害に遭った者や、その家族に大きな傷を残している。
 工業都市・ニビの街。
 そこは、人々が手に職を持ち、懸命に働き続ける街。
 眠ることを知らない街。 それは今も、そしてあの惨劇のあった頃も変わらない」
−10数年前−
ホムラ一族の集落、フイゴ邸
幼タタラ 「父様、父様、ご本読んで」
テクテクと、本を抱えて歩いてくる。まだ幼いタタラ。
フイゴ 「おぉ、タタラぁ。お前は勉強家だなぁ」
三人の男の子が生まれたが、その後に生まれた女の子・タタラが可愛くてしょうがない。
近づいてきたタタラを抱き上げて、膝に載せる。
幼タタラ 「タタラね、大きくなったら、父様や兄様達の役に立てるお仕事をするの」
フイゴ 「そうかそうか、でも鍛冶場の仕事だけはやめとけよ?」
幼タタラ 「なんで?兄様達は皆、鉄を打つ仕事をしてるのに…タタラも父様や兄様達と一緒にお仕事する!」
フイゴ 「だからなぁ…タタラよ、もし鍛冶場に居たら、父ちゃんやチクロやイガタや、他の奴等のように、
 目を潰しちまうだろうが…。
 せっかくタタラは母ちゃんに似て可愛い顔してんだから、女の幸せっつーもんを追求してだなぁ」
幼タタラ 「ついきゅう?」
フイゴ 「だからなぁ…」
イガタ 「タタラ、あんまり父様を困らせちゃいけないよ?」
次男・イガタが帰ってくる。イガタは左目がつぶれている。
フイゴが痩せたなら、こんな顔だと思われる…というような顔をしているが。目元は若干母似。
幼タタラ 「イガ兄様!チク兄様!おかえりなさい」
チクロ 「まぁ、タタラは嫁に行かずにずっとこの家に居るんだもんなぁ。なー?タタラ」
長男・チクロもイガタと一緒に帰ってくる。チクロも右目をつぶしている。
フイゴに似て、常人よりも大きな骨格をしている。(太っては居ない)
幼タタラ 「およめさん、なる!」
イガタ 「好きな人でもいるのか?タタラ」
幼タタラ 「ゲン兄様」
イガタ 「…げ…ゲンコ…さん?なんでゲンコ兄さんが好きなのかなー?タタラぁ、200文字以内で答えてみよう」
幼タタラ 「だってね…いつも、チク兄様がどこか行っちゃうと遊んでくれるの……」
イガタ 「兄様、サボってらしたんですね」
チクロ 「……?!」
幼タタラ 「あと……タタラ、このあいだ、鳥さん見つけたの、おうち壊れてかわいそうだったの」
イガタ 「ふんふん」
幼タタラ 「そしたら、ゲン兄様、鳥さんのおうち作ってくれたの」
チクロ 「まぁ、アイツはタテシだからなぁ」
幼タタラ 「この間はね、タタラとエンにね、ガラクタ置き場にブランコ作ってくれたよ。だからゲン兄様のお嫁さんになるの」
イガタ 「そっかそっかぁ、タタラ、今日のお夕飯はなんだろうねー」
なんとしてでも、今はタタラの好きな人「ゲンコ」から関心をそらそうとしている。
チクロ 「あ、そういやぁ、親父殿よ」
フイゴのとなりに胡坐をかく。
フイゴ 「なんだぁ」
チクロ 「……旅に出ようと思う」
決意を持った表情で。
フイゴ 「……ほう」
チクロ 「親父殿よ。俺達ホムラは、炎を扱う…俺らのお役目は、鉄を作る事…だが、俺はもっと極めてぇんだ。
 もっと良い鉄を作りてぇ。
 鉄だけじゃねぇ、他のもんだって、もっと良いもんを作りてぇ…その為には、今のままじゃぁ到底無理だ」
フイゴ 「……」
長男の決意に、戸惑っている
チクロ 「…その為には、何処かから他の技術を取り入れる……ってのが、得策だと思うんだが…」
フイゴ 「まぁ、それも一理あるな……だが」
子煩悩な父親・フイゴ、チクロが旅立つことが心配。
幾ら成人間近の、自分に似てマイペースだがしっかりしている長男でも、心配なものは心配。
チクロ 「……親父殿、解ってくれ。俺は親父殿には感謝してる。尊敬してる。
 だが、こればかりは……次の跡目を継ぐ俺にも、言う権利がある筈だぜ?」
フイゴ 「……」
チクロ 「親父殿!」
フイゴ 「いや、お前の言ってる事は最もだ。俺もそう思っていた。
 今の鉄じゃぁ、重すぎて色々と不便だ。何か新しいもんを作らねぇといけねぇ。
 古いもんばっかじゃねぇ、新しいもんも取り入れていきゃぁ、もっと良いもんができるだろ」
チクロ 「…それじゃぁ!」
フイゴ 「あぁ、行ってもいい。だが、半端だけはすんじゃねぇぞ。
 旅の途中で嫌になりましたって戻ってきても、帰って来る場所はねぇと思え」
チクロ 「あぁ!ありがとう!親父殿!」
イガタ 「良かったな、兄さん」
チクロ 「俺が居ない間は頼んだぜ、イガタ」
イガタ 「…はい」
幼タタラ 「チク兄様、どこかお出かけするの?」
まだ幼すぎて、父と兄等の話が解らない。
チクロ 「あぁ、ちょっと行って来る。タタラ、ちゃんと親父殿や母様や兄ちゃん等の言うこと聞いて良い子にして待ってるんだぞ?」
そばに寄ってきたタタラの頭を撫でながら。妹の顔を見ると、旅立つ心が微妙に折れる。
幼タタラ 「うん!良い子にしてまってる!」
と、そこにヅチが帰ってくる。
後ろには一人、お客を連れて居るようだ。
幼タタラ 「ヅチ兄様!おかえりなさーい!」
ヅチ 「ただいま」
ゲンコ 「おじゃましまーす」
まだ若いゲンコ。
フイゴ 「おう、ゲンコぉ、まぁ座れ」
幼タタラ 「ゲン兄様〜〜!」
ゲンコ 「タタラ嬢ちゃん!」
父のひざから降りて走ってきたタタラを抱えあげる。ゲンコは昔から子供好き
ヅチ 「ちょっとそこで会ったからつれて来たんだ」
チクロ 「ゲン、頼んでたアレ、出来そうか?」
ゲンコ 「んー、まぁ、大丈夫だとは思うけど…チク、本当にアレで行くのか?
 ジオは自信満々って感じだったけどなぁ…」
心配そうに。
ジオペ……クミの一族の若者。チクロとゲンコの親友。(三人、幼馴染)
チクロ 「まぁ、お前等の腕なら信用してるぜ?俺は」
ゲンコ 「そう言うなら仕方が無いなぁ」
ちょっとお人好し過ぎるところがあるゲンコ、ましてや親友のチクロの依頼は断れない。
チクロ 「そう言やぁ、カンナとはどうなったぁ?」
ゲンコ 「か…カンナの事は言うな!」
顔を真っ赤にして。まだ付き合い始めである。
幼タタラ 「カンナ姉様、ゲン兄様とどうしたの?喧嘩したの?」
イガタ 「うん、タタラぁ、今日は面白い本を買ってきたから、一緒に読もうね」
関心をよそに向けようとしている。
幼タタラ 「はーい!イガ兄様!」
タタラはイガタに抱き上げられる。そのまま二人、退場。

フイゴ 「で、チクロ、おめぇ、何をゲンコとジオに頼んだんだ?」
チクロ 「…ちょっとな。俺が旅に乗ってくソライスを」
ヅチ 「あれは凄いよね」
チクロ 「あぁ、ゲンとジオには不可能は無いからな」
幼馴染3人組には、互いの腕には、深い信頼がある。
ヅチ 「ねぇ、チクロ兄」
チクロ 「なんだぁ?ヅチ」
ヅチ 「もし、チクロ兄が無事に戻ってきたら、今度は僕にあのソライス貸してくれる?」
チクロ 「おう、良いぜ。でもどうすんだ?お前、まだソライスを一人で運転できねぇだろ?」
ヅチ 「大丈夫だよ、兄さんが戻ってくるまでには、僕、乗れるようになってるから!」
チクロ 「頑張れよ。で、そのソライスどうすんだ?」
ヅチ 「ん?僕もちょっと旅に出たいんだ。タタラとももっと遠くに遊びに行けると思うし」
フイゴ 「母ちゃんが心配するから、あんまり遠くに行くのは辞めろ。ヅチ、お前にはまだ早すぎる」
ヅチ 「だって、親父殿。僕、まだこの街から出たこと無いし、もっと色んな物が見たいんだ」
街の外を知りたい。ほかの国に行っていろんな事を体験したり、冒険したりしたいと、ヅチは思っている。
幼いころから、祖父の冒険譚を聞くのが大好きな少年だった。
フイゴ 「ヅチ、おめぇなぁ、チクロは遊びに行くわけじゃねぇんだ。おめぇみてぇなのがオイソレと行って物にできるか」
ヅチ 「やって見なけりゃわからないさ!」
フイゴ 「バカヤロウ!!テメェはまだガキだ。まだ火もまともに扱えねぇくせに何ほざいてやがる!!」
ヅチ 「親父殿は鉄の打ちすぎで頭まで硬くなってるんだ!!僕だって夢があるんだから!!」
フイゴ 「もういい!テメェは出てけぇ!!」
思いっきりヅチの頬を打つ。
ヅチ 「…っ!!」
打たれた左頬を押さえ、父を一瞥すると、その場から立ち去る。
その目には、涙が浮かんでいる。どうして兄は許されて、自分は許されないのだろう。(答えは、ヅチがまだ子供だから)
 
ナレ 「家の裏、一人座り込んで泣いているヅチの姿があった。
 小さいころから、たくさんの英雄の話や、冒険話を聞かせてくれた父なら、きっと喜んで送り出してくれるに違いない。
 自分の夢を応援してくれるに違いないと、ヅチは思っていたのだ。
 だが、父はそれに反対した。…裏切られた、と言う気持ちが、ヅチの心を傷つけたのだ」
ヅチ 「………」
まだ泣いている。
ヅチの年齢は、ちょうど中学校2,3年生ぐらい。いわゆる「夢見るお年頃」。
ゲンコ 「…ヅチ、ここに居た」
泣いて飛び出して行ったヅチを探しにきたゲンコ。
ゆっくりとその横に座る。
ヅチ 「…ゲンコ兄…」
ゲンコ 「泣いててもしょうがないだろう」
ヅチ 「……」
ゲンコ 「おやっさんだって、ヅチの事が心配なんだよ」
ヅチ 「だって、僕だって外の世界が見たいんだ…」
ゲンコ 「お前はまだ子供なんだよ。だから、おやっさんは心配してる」
ヅチ 「……」
ゲンコ 「きっと、ヅチがチクロぐらいになったら、旅立つことも許してくれるさ」
ヅチ 「そうかなぁ…」
ゲンコ 「あぁ、そうだよ。おやっさんだって、ヅチにはたくさんの物を見て欲しいって、そう思ってる。
 俺は今から楽しみだよ。お前が旅から戻ってきて、いろんな話を聞かせてくれるの」
ヅチ 「……うん」
ゲンコ 「心配するなって、おやっさんはそこまで頑固な人じゃないし、ただ単にお前の事が心配なだけだから」
ヅチ 「…そうかなぁ…」
ゲンコ 「そうだよ。 ……俺には、親父が居ないから、見てて羨ましいよ。ヅチ」
ゲンコの父親は、ゲンコが幼いころに建設作業中の事故で転落死している。
幼いゲンコは、弁当を届けに行った際に、それを目の前で見ていた。
ナレ 「ゲンコは、父を失った自分に、それを補うように、本当の父親のように接してくれたフイゴには、
 言葉では言い尽くせないような恩義を感じている。
 そして今、彼は目の前の少年に、少し羨望の念を抱いていた。
 父を失い、往くべき道を相談する事さえ叶わなかった自分。目の前の少年は、父に往くべき道を提示し、それを阻まれ蹲っている」
ヅチ 「……僕が、大人になったら…親父殿は許してくれるのかな」
ゲンコ 「きっとな。お前が、本当に見たい物とか…本当にそれがお前のやりたい事だったら、
 親父殿はきっと、笑って許してくれるさ…それに、大人になったら、きっとあの子を迎えに行ける……きっと」
ヅチ 「…ありがとう、ゲンコ兄」
ヅチは、自分の考えがまだ子供の考えだったことに気がつく。
甘えていたのは、自分だ。
ゲンコが苦労して居るところを、ヅチも何度も見てきた。
ナレ 「少年は立ち上がる。
 自分にはまだやることがある。
 家の中からは、幼い妹が、次兄と遊ぶ声が聞こえていた」

ナレ 「同じ頃、ハコビの集落内のソラの住む場所。
 その中の一番奥の家、そこがソラの頭領・ヨクの家である」
フウ 「『……そして、英雄・ストリは言いました。
 <姫君、私は必ずや、あなたの元に迎えに迎えに参ります。どんな苦難をも乗り越えて、
   私はあなたの元へ良い報せを持って帰ってきます>」
ナレ 姉の膝の上、昔話を聞きながら、幼きソラの少年は穏やかに眠りに就いていた。
フウ 「『姫は、何度も頷いて、答えました。
 <あなたが旅立つと言うのなら、私はそれを止める事は叶いません。どうか…どうかご無事で…
   私はここで、待っていることしかできません>」
エータ 「……エン、寝たか?」
後ろから、こっそりと。
フウ 「えぇ…もう、ぐっすりと」
エータ 「さっきまでグズッてたのになぁ」
フウ 「眠かったのよ」
エータ 「まぁ、そうかぁ……」
フウ 「……でも、エン…いつになったら泣き虫が治るのかしら…この子、今日も泣いてたわ」
あと3ヶ月ほどしたら、フウは家を出なければならない。
風の民の神殿にて、巫女になるのだ。(つまり、出家…尼になるようなもの)
弟を可愛がっている彼女は、神殿に行く日まではエンの面倒を全部見たがっているので、自然と母親のような口調。
エータ 「泣き虫なのはお前に似たんじゃねーの?」
フウ 「あら、兄様だってついこないだまでは、ちょっとの事で泣いてらしたわよね?」
エータ 「うるせぇ!」
エータとフウはとても仲が良い。憎まれ口を叩き合いながらも、互いを尊敬している。
しばしの沈黙が流れる。
エータ 「……もうすぐ…か」
フウがこの家から居なくなってしまう事を悲しんでいるのはエータも同じである。
フウ 「たまに戻ってきますわ。それに、お手紙だって毎日書きます」
エータ 「…お前さぁ…」
フウ 「はい?」
エータ 「お前さ、ヅチの事、好きなんだろ?」
フウ 「………」
ヅチとフウは、実は恋人同士。離れるのが本当はつらい。
エータ 「……なら、何で…」
フウ 「仕方ないわ、しきたりだもの」
ソラの一族のしきたり。
魔力、強い呪文の力を使える者は、ある一定の年齢になると風の民の神殿にて、風の巫女にならなければいけない。
ちなみに、先々代の風の巫女は、他ならぬエータ達の母である。その血を受け継いで生まれたフウもまた、その宿命から逃れられないものの一人。
エータ 「…しきたりって!!それじゃぁお前、一生あん中で過ごすってのかよ?!」
フウ 「……それしかないわ。良いの、私……歌うの好きだし」
風の巫女の仕事。
それは、別名「風神の花嫁」。風神の嫁として仕え、ソラの男など、風の民たちの為に呪歌を歌うのが勤め。
エータ 「だけどよぅ…」
フウ 「それに、兄様が一人前のソラの男に成れたなら、いつでも会えるじゃない。
 兄様が空を飛んでくれば、神殿から見えるでしょ?そしたら私、手を振るから」
エータ 「そういう問題じゃないだろ!!」
フウ 「そういう問題よ……あんまり騒ぐと、エンが起きてしまいますわ。兄様、場所を変えましょう」
エンをベッドに寝かしつけると、立ち上がって部屋を出て行こうとする。
エータ 「逃げるなよ!!」
その後を追い、フウの肩をつかむ。
フウ 「…逃げる?兄様、私は逃げてなど居ないわ」
エータ 「逃げてる!お前は、考える事から逃げてる!」
フウ 「逃げてなど居ないわ!兄様、私は風の民を守る巫女として、立派にその役目を果たす義務があるの。
 私がこの力をもって生まれた以上、その役目を果たさずに死ぬ事はここまで育ててくれた父様や母様…ソラの皆への冒涜になるわ」
エータ 「フウ!俺が言いたいのはそういうことじゃないんだ!」
フウ 「そういうことよ!!」
エータ 「フウ! ………ごめん」
妹の目には、涙が浮かんでいた。
家族たちと別れるのが、辛くない筈がない。
まして、家族を愛するフウがそれを平気で居るはずがない…と言うことを、エータは理解し、そっと妹を抱きしめる。
フウ 「……兄様、お願いだから迎えに来て……」
兄に抱きしめられ、嗚咽と共に、ようやく本音を漏らす。
エータ 「……あぁ」
フウ 「私、本当はずっと家に居たい……父様や母様や兄様…エンと離れたくない。
 タタラとだって離れたくない……ヅチとも、離れたくないの…」
エータ 「…解ってる、絶対、迎えに行くから…」
フウ 「絶対よ?」
エータ 「…あぁ、絶対に…」
ナレ 「二つの家族は、それぞれの時間を過ごす。
 …だが、平和に過ぎ去ろうとしていたこの時間を、無情にも押し潰そうとする軍靴の足音は、彼等のすぐ後ろにまで迫っていた…」

















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