ニビイロ第四話
−なる時・後編−

※下に書いてあるのはト書きです。
※アドリブを入れるのは自由ですが、台詞の意味などは変えないでください。
※3番タイムなどに、自分の役の台詞とト書きだけでも良いので、ちゃんとチェックしてから演じてください。
※基本的に、色のついたセルは、ト書きです。


ニビ 25歳前後 一応主人公
詳細不明のサイボーグ。(四肢機械)
本人に関する記憶を一切失っている。
ニビの街の工場では、用務員兼事務の手伝い(いわゆる雑用)の仕事をしている。
基本的には、口数は少なく、穏やかな性格をしている。
エンとタタラを穏やかに見守っているようなタイプ。
今回、ほとんど台詞が無いので、ナレと被りでも可。
エン 20歳前後 「ハコビ/ソラ」の一族の一人
ハコビの頭領の息子。
へヴィスモーカーでドライなようで結構熱血(?)タタラとは家が近所で、幼馴染。
エアフォークで物資を運んで空を飛び回る。
タタラとはよくからかい合う仲ではあるが、若干タタラの兄のような表情を見せることもある。
タタラ 20歳前後 「ホムラ」の一族の一人
ホムラの頭領の娘。
女伊達等に鍛冶場で働いている。
口調が男っぽいだけで、中身は列記とした女である。
基本的男らしさを意識した感じで喋る。
※できれば、かわいさを取っ払ってください。
フイゴ 40代後半〜50代 「ホムラ」の一族の長
タタラの実父。粗野な言葉遣いや態度ではあるが、家族思いでのんびり者である。
大所帯のホムラ一族を纏め上げる男。人間ではないような巨体。
だが、担当する仕事はロウ付け。(本人曰く「隠居」)
ゲンコ 三十代前半 「タテシ」の一族の青年。
三年前に結婚したばかりで、まだ言葉をしゃべり始めた娘がいる。
腕は確かで、ニビの街でも期待されている若手である。
少々親ばか気味だが、自分の仕事には妥協はしないタイプ。
カンナ 二十代後半 「タテシ」の一族の女性
ゲンコの妻。
気性は荒いが、ゲンコとノコを深く愛している優しい女性。
怒るとゲンコを殴る癖がある。
ノコ 一歳半ぐらい。
まだヨチヨチ歩きの赤ん坊。
最近言葉を覚えたばかり。父・ゲンコに非常になついている。(パパっこ)
  
ナレ







時代・世界観
舞台背景など
高度科学(高度工学?)と魔法がまだ共存している時代。
舞台となる、工業都市・ニビは、世界でも有数の工業都市。
そこで作られるものは、高評価を得ていた。

その街で暮らすものたちは、ほとんどの職業ごとに、一族に分かれている。
ホムラ一族 フイゴ率いる炎の一族。
炎を扱う事に長けており、またそれを生業とする一族。
フイゴの娘、タタラが頭領代理。
ハコビ/ソラ一族 ヨク率いる空の一族。
風を読む事に長けている。空輸、または運搬艇を使った資材運びを
生業としている。
ヨクの息子、エンは、若手のまとめ役。
タテシ一族 ゲンコの一族。
大工仕事や建設、いわゆる「建てる事」を生業とする一族。
ゲンコは、この中でも期待されている若手。
ソラフネ 飛行機のようなもの。空を飛ぶ船。
ニビの街では、これや準ずる物を盛んに作っている。
兵器等を積み込んだ"戦艦”も作られる。
ソライス
(エアースクーター)
ソラフネと同じ構造で、空を走る。
見た目はバイクのタイヤが無いバージョンみたいなもの。
エンもよく乗っている。
ツクラレ いわゆるサイボーグ。
四肢を亡くした者は、その代わりに機械義肢をつけられるが、
その代わり、それ以前の記憶を一切失う。
ニビもその一人。






ナレ 「ゲンコの病室。
泣き叫び、拒否反応を示すカンナを目の前に、
ニビはまるで心まで「ツクラレ」になったかのような表情で、その場に立ち尽くしている。
ゲンコは娘のノコがベッドによじ登ってきたので、それの相手をしている」
カンナ 「帰ってよ!!ゲンコはツクラレなんかにしないんだから!!」
ニビ 「…でも、それがご本人のご意思の場合、ご家族がなんと仰っても、
 僕にはどうすることもできません」
なるべく感情を押し殺すように。
目の前の、幸せな家庭を壊すのが、恐ろしい。
カンナ 「帰れって言ってんのが解んないの?!」
ニビ 「…ですが、ゲンコさんの意思は…」
カンナ 「ツクラレのあんたに何がわかるって言うのよ!!」
ゲンコのベッドの横の棚にあった花瓶を、ニビに投げつける。
それは左肩に当たり、ニビの身体は水浸しになる。
ゲンコ 「…カンナ!!」
厳しい口調。
ゲンコは、ニビがツクラレになる前を知っているようである。
そして、ツクラレになるまでの苦悩なども知っている。
カンナ 「……っ…とにかく…今日の所は帰ってくれないかしら…。
 突然過ぎて、頭の整理がついてないのよ…悪かったわね、ニビ」
元々カンナは、この街の大抵の人のように、気性や言葉は荒いものの、優しい女である。
ニビに対しての失言に気づき、本当に申し訳ないと思っている。
ニビ 「…それでは、明日…また、来ます…早く次の段階に行かないと、
 ゲンコさんは本当に…二度と土を踏むことが出来ない…大工仕事の出来ない身体になってしまいます」
ニビは、そういうと、病室を後にする。
少し歩いたところ…街全体を見渡せる展望ロビーまで来ると、壁に寄りかかって立ち止まる。
ロビーには、人は居らず、ガラーンとしている。
ニビ 「……僕も、あんな風に……悩んだろうか…」
全身の、機械の関節が軋みだす。
今までに感じたことの無い傷みだ。
それを抑えて、ニビはその場でうずくまる。
 
ナレ 「その夜、タタラの家では、エンとタタラが、フイゴからゲンコの件と、ニビの仕事の話を聞いていた。
一気にそれを聞いた二人は、驚きを隠せない」
タタラ 「…嘘だ…! ゲン兄が…そんな…嘘だろう?!親父殿!!」
エン 「何でゲン兄が…!?…ニビもニビだ…なんでそんな仕事引き受けちまったんだよ!!」
 ゲンコは、エンとタタラにとっては、年の離れた兄のような存在で、
幼いころは、いつも遊び相手になってもらっていた仲である。
二人にとっては、酷いニュースが一気に入った。
フイゴ 「…しょうがねぇだろう、そうなっちまったもんは…
 だいたい、ニビをそんな仕事につけたのは、オサメの若造だ…お前等がここで喚いても何にもなんねーよ」
エン 「…おやっさん、ニビは…大丈夫なんだろうな!?」
フイゴ 「どうかは解らんが…」
タタラ 「親父殿」
フイゴ 「何だ」
タタラ 「明日、少し休みをくれないか。少しで良い」
フイゴ 「…ゲンコのとこか…やめておけ」
タタラ 「でも…!ゲン兄がツクラレになってしまったら…もう!!」
取り乱している。ゲンコのことを、実の兄のように思っているからだ。
フイゴ 「最後の…家族の時間だ…俺らが行っても野暮ってもんだろう。
 お前がそれを一番よく知っている筈なんだがなぁ…タタラ?」
諭すように、父の右目は、タタラの右目を見つめている。
(二人とも職業病にて、左目は潰れており、眼帯をしている)
タタラ 「だが…!!」
フイゴ 「…どんなにお前やエンがゲンコのことを本当の兄のように慕ったとしても…
 しょせんは、他人でしかないんだ…一族だって違うんだ」
タタラ 「……」
思いもよらぬ、父の意外にも冷たい言葉に、タタラは閉口する。
フイゴ 「……すまん」
言い過ぎたと思って、そっと大きな手で娘の頭を撫でる。
タタラ 「…………ニビ、いつか思い出す時が来るのだろうか…」
少し落ち着いて、タタラは今脳内にあることを吐き出す。
エン 「そう簡単にはいかねぇさ…」
タタラ 「…もし…もし、思い出してしまったら…」
ナレ 「そういう“魔法”の副作用なのだ。
 痛みを取り払い、すぐに機械義肢を元の身体のように動かせる代償として、記憶を奪う。
そして、その反対も然り…思い出してしまったら、その失った場所の痛みが再現されてしまう。
その痛みを再現させてしまったら…死ぬほどの痛みであることは、誰もが解るだろう。
 …それが、“ツクラレ”になると記憶を失ってしまう理由である」
エン 「…思い出さないほうが…幸せなんだ。
 ニビには悪いが…何があっても、思い出させるわけにはいかねぇ…」
  
ナレ 「次の日、ニビ総合病院。ニビの姿が、ゲンコの病室にあった」
ノコ 「トータン、トータン」
まだ幼いノコは、父がベッドから起きられないことを不思議に思っている。
ゲンコ 「ノコ、父ちゃんなぁ、これからちょっと遠いところに行ってくるんだよ」
ベッドの上で父の顔をじーっと見ている娘を、胸に抱きしめる。
ノコ 「トーイ…?」
ゲンコ 「あぁ、そうだよ…だけど、絶対いつか戻ってくるからな…母ちゃんの言う事ちゃんと聞いて、
 良い子にしてまってんだぞ?」
ノコの、柔らかい、焦げ茶色の髪を撫でてやる。
焦げ茶色の髪は、妻であるカンナに。緑色の瞳は父であるゲンコに似た娘。
ゲンコ 「父ちゃん、絶対戻ってくるからな…」
ぎゅっと抱きしめたその時、医師達が室内に入ってくる。
ゲンコを“ツクラレ”にするためである。
ベッドからゲンコをストレッチャーに乗せようとすると、ノコは必死でしがみついて離れない。
赤ん坊と言えども、すごい力で、父にしがみついている。
カンナ 「ノコ…父ちゃん、もう行く時間だから…」
ノコ 「ヤー!」
カンナ 「ね…良い子だから、母ちゃんとここで待ってよう?ね?」
そう言ってノコを自分の胸に抱きしめる。
が、カンナの青い瞳からは涙がとめどなく溢れている。
一晩、必死で考えた…これが結果なのだ。
ゲンコ 「…んじゃぁ、言ってくる。
 大丈夫、ノコにはまだ…親父の…俺の記憶は少ない。
 俺が思い出せなくても…きっとすぐに忘れてくれるさ…」
じたばたと暴れているノコを抑えるカンナに、慰めるように。
カンナ 「忘れるはず無いわ…。だって、この子は、こんなにあんたのことが好きなんだから…」
ノコの叫びと、カンナのすすり泣きの響く中、ゲンコは処置室に運ばれていく。
 
第一製鉄場、ベランダ。上空100メートルは超える眺め。
そこに、タタラとエン、フイゴの姿があった。並んで、病院のある方向を見ている。
フイゴ 「…忘れっちまうのは辛いさ…どんなに好きなことや、大事にしてたことすら、カラッと忘れちまう。
 それが平気なやつは…いねぇよ」
タタラ 「父様(とうさま)…家族に忘れられたら…もう他人として接するしかないんだ…。
 カンナさんやノコが…どんな気持ちでゲン兄と接するか…私は、それを考えると辛いんだ…」
ゲンコのことを聞いてから、心が疲れている。
その為、フイゴのことも、元の「父様」と言う呼び方になっている。
フイゴ 「またそこからやり直せるさ、何度だって」
タタラ 「そこから関係をやり直すとしても…
 友達になろうが恋人になろうが…元の家族には戻れないんだよ?親父殿」
フイゴ 「…」
娘の気持ちが、痛いほど解る。
その為、フイゴは口を閉ざして、遠くを見つめる。
エン 「もし…思い出せるときが来たって、身体はそれを拒絶するだろうさ…。
 それでも思い出そうとするのは…ただの馬鹿だ…馬鹿野郎だ」
  
ナレ 「ゲンコが処置室に入ってから、5時間後。病室のベッドの上、ゲンコの姿があった」
安全確認のため目が覚めてから、そういう施設に運ばれるので、今は周りが看護婦達がバタバタと動いている。
ノコ 「トータン、トータン」
父が戻ってきたことがうれしいらしく、ジタバタと父のベッドによじ登ろうとしている。
ゲンコ 「……どうしたんだい?」
ベッドの上によじ登って来たノコを見る。
優しい笑みを浮かべてはいるが、それは以前のゲンコの笑みでは無い。
記憶が吹っ飛んでも、子供には優しいところを見ると、どうやらゲンコの子供好きは、生来のものらしい。
ノコ 「トータン?」
ゲンコ 「……君は、どこの子かな?お母さんが心配してるよ?」
カンナ 「……」
その様子を見て、必死で涙をこらえている。
ノコ 「トータン、トータン」
無邪気に、起き上がったゲンコによじ登ろうとしている。
“前”のゲンコだったら、笑ってノコを抱きしめているだろう。
ニビ 「それでは、失礼します。カンナさん…また、後ほど」
あくまで事務的に。ニビ本人は、心の中ではかなり辛い。
ナレ 「すべてが終わり、ニビの指示で、ゲンコのベッドと荷物が運ばれていく。
廊下に響くのは、ノコの父を呼ぶ声。
…しかし、カンナは気づいていただろうか。
記憶を失くしたはずのゲンコが、自ら胸元に家族の写真を入れていたことに」
ノコ 「トータン、トータン、トータン、トータン」
無邪気に、父を呼ぶ。
次第に、父は戻って来ない事を理解したのか、その声は泣き声に変わっていく。


















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