ニビイロ−第十三話−

※下に書いてあるのはト書きです。
※アドリブを入れるのは自由ですが、台詞の意味などは変えないでください。
※3番タイムなどに、自分の役の台詞とト書きだけでも良いので、ちゃんとチェックしてから演じてください。
※基本的に、色のついたセルは、ト書きです
(081007完成)


タタラ 20歳前後 「ホムラ」の一族の一人
ホムラの頭領の娘。頭領代理。女伊達等に鍛冶場で働いている。
口調が男っぽいだけで、中身は列記とした女である。
基本的男らしさを意識した感じで喋る。
※できれば、かわいさを取っ払ってください。萌え萌え厳禁。notべらんめぇ口調
フイゴ 40代後半〜50代 「ホムラ」の一族の長
タタラの実父。粗野な言葉遣いや態度ではあるが、家族思いでのんびり者である。
大所帯のホムラ一族を纏め上げる男。人間ではないような巨体。
だが、担当する仕事はロウ付け。(本人曰く「隠居」)
ヨク 40代後半〜50代 「ハコビ/ソラ」一族の長
エンの父親。フイゴとは幼馴染で、よく似た性格をしてはいるが、
ヨクのほうがかなり短気であり、頑固で喧嘩っ早い。
工場内に響くような怒声でよくエンたちを怒っている。
サンキリ 四十代後半〜50代 「ホムラ」の一族の一人。
この街の職人であるから、やはり口調や態度は荒いが、子供好きで、フイゴの子供達を始め、
ホムラの子供達の面倒をよくみる優しいおっさん。
フイゴの従兄弟(同い年)であり、タタラにとってのおじ。
フイゴよりは小柄であるが、やはり骨格が人外の頑丈さ。
ヒサシ 三十代前半 ホムラの一族の一人。
やはり気が荒い。出産間近の妻が居る。
この一族のものでも珍しいぐらいに、頭に血がのぼり易い性格。だが、根はまじめ。
血縁で言えば、サンキリの兄弟の息子であり、タタラのハトコである。
ジオペ 三十手前。 クミの一族の一人。ハンダの八男坊
変わり者ではあるが、腕は特一級品。
機械を手足のように使い、またその知識量は常人を遥かに超える。
それ故、『機械の神に愛された男』と呼ばれている。
※今回、台詞はありません。
ザブィ 見かけは二十代後半
ロギザの『天使』の一人。『忘却』を司る。いろいろ忘れている。
※今回は一言しか台詞がないので、ヒサシと被りでお願いします。
ハンダ 70代前半。 クミの一族の長。ジオペの実父。
機械を組み立てる事に長けており、数の多いクミの一族を纏め上げる長である。
基本的には穏やかな人物ではあるが、無礼者はレンチでぶん殴る。ニビの街の各一族の長で一番の子沢山。
(九男六女)
※今回は台詞が少ないので、サンキリと被りでお願いします。
スパナ 三十代前半。 クミの一族の女。 ジオペの実姉。五女。
クミの一族の中でも、ジオペを理解できている数少ない人物。
ジオを馬鹿にする人間を許さない。ちょっと荒々しい。一応人妻で子供(三歳の男女の双子)も居る。
ヴィント 20代中盤
ロギザ出身の亡命者。若き技術者であり、飄々としてはいるが、腕は確かなもの。
つかみどころの無い性格。あんまり物を考えない性格なのか、それとも打算づくなのか、ずけずけと物を言う。
あんまり何も考えない、緩めな感じでやってください。そうとう自己中。よくも悪くも現代っ子。
ナット 10代中盤。 クミ一族の少年。
まだ職場に出たばかり。若干自分に自信がないようで、弱弱しい喋りをする。
だが、期待の若手でもあるらしく、ハンダには褒められる。ハンダの息子の子。
(ハンダの孫、ジオペ・スパナの甥)
※台詞少ないので、スパナの役の方被りでお願いします。
ナレ








ロギザの山間にある、大聖堂。
かなり古い建物である事は間違いないが、参拝客はない。
その地下には、楽園のような、庭園が広がっている。その端にある、大樹の前で、青年が立っている。
ザブィ 「……えーっと、なんだっけ……あぁ、そうだ。行って来ます。マーマ…」
どうやら、何かしなければいけないようだが、いろいろと忘れているようすである。

第一製鉄所のベランダのベンチ。
タタラと、ホムラ一族の男が並んで腰掛けている。
タタラ 「……なんだってぇ?!」
ナレ 「ニビの街の工場、第一製鉄所。
 休みを終え、鉄を打つことに戻ったタタラ。休憩時間に驚きの声を上げた」
サンキリ 「ホントなんでさぁ。こんな事で嘘ついてどうするってんだよ、タタラ嬢ちゃん!」
タタラ 「……ゲン兄様が…ゲン兄様の記憶が戻ったなんて…」
ベランダのベンチのような椅子に腰掛けて動揺している。
ナレ 「ゲンコの記憶が戻った事。それを聞いたタタラは、驚きの表情を隠せない。
 だが、それ以上に心中は複雑なものだった。記憶が戻った事を喜んでいいのか。
 それに伴い義足を失い、再び生きがいである仕事が出来なくなった事を嘆けばいいのか…」
サンキリ 「タタラ嬢ちゃん、フイゴの奴から何も聞いてなかったのかよ?」
タタラ 「いや、何も聞いてないんだ…父様、昨日から一言も口をきいてくれない…」
サンキリ 「あー、あの居候の件かい。やっこさん珍しくハラワタ煮えくり返ってんな」
タタラ 「あぁ…父様、よほどヴィントが気に入らないらしくて……母様も怒ってるし…」
サンキリ 「確かになぁ…で、その居候はどうしてんだい。今」
そこに、何やら怒った様子のホムラのものが出社してくる。規定の出社時刻より、かなり過ぎている。
ヒサシ 「あんにゃろう、ただじゃおかねぇ…」
タタラ 「ヒサ兄、おはよう。今日は遅いな。何かあったのか?」
怒っては居ない。ただ本気で心配だった。(ヒサシにはとある事情もあるので)
サンキリ 「おう、ヒサシじゃねぇか。どうしたよ?」
ヒサシ 「嬢ちゃん、嬢ちゃんとこの居候だけどよぉ」
頭に血が登っている。もう、誰かにぶつけなきゃやってらんない感じ。
タタラ 「…あいつが何かしたのか…」
ヒサシ 「あぁ、してくれた。してくれた、しでかしてくれやがったぜ!!
 俺のソライス、『どういう構造してんだ。興味深いから見せてくれって言ったまでは良い。
 だけどよ、その後ものの数分でバラバラ殺人事件だぜ!俺のソライスがよぉ!!歩いて来るしかなくなっちまったじゃねーかよ!!」
タタラ 「……ごめんなさい」
ヒサシ 「いや、嬢ちゃんが謝ってもらってもしょうがねぇ!嬢ちゃんは何も悪くねぇから!」
タタラの隣にドカッと腰を掛けて、水筒の茶をグビグビ飲み干す。
サンキリ 「そういや、おめぇんちのかみさん…」
ヒサシ 「そうだよ!もうすぐガキ生むんだ…だから…」
妻は初産。彼にとって初めての子供。とっても神経質になっている。妻の身体はあまり丈夫じゃないので入院せざるおえない。
ナレ 「この男は、ここ最近は妻が出産のために入院している。
 その為に、朝に一度病院に寄ってから仕事に向かうと言うのが日課となっていた。
 ホムラの集落から病院、病院から工場まではそれぞれ距離がある為、ソライスでの移動がなければ完全に遅刻してしまう」
ヒサシ 「やっぱり嫁さん、自分の力で生んじまったら、死ぬかも知れねぇんだと……
 だからよ。いい位に育ったから、近いうちに赤ん坊、腹から取り出すんだ。
 それでさえも俺の嫁さん、大丈夫かどうかわかんねぇんだ……今日はそれの説明受けてた」
タタラ 「…とりあえず、本当にすまん。今日遅れたと言うのは、オサメの方に私から事情を話して、なかった事にする」
ヒサシ 「あぁ、そうしてくれるとありがてぇ!こっちは女房子供のためにこれからはガッツリシッカリ稼ごうって時にあんにゃろう!!」
サンキリ 「こりゃぁ…フイゴの野郎も怒るのも無理はねぇとこだなぁ……」
タタラ 「……あぁ…」
ナレ 「三人は揃って空を見上げた。これから起こるであろう、ヴィントによる厄災と言うのを想像すると、頭が痛いところである」

サンキリ 「そういやぁ、フイゴはどうしたよ」
タタラ 「今日の朝、出かけていった。たぶん、ゲン兄様のところだと思う」
ヒサシ 「ゲンコの野郎もどうなる事やらなぁ…あいつさぁ、ツクラレんなってからも元気に仕事しててよ。
 ついこないだも一緒に飲んだぜ。…アイツ、俺の事は覚えてて、俺んとこに赤ん坊が生まれるの、本当に喜んでくれてなぁ…
 赤ん坊の揺り篭、作ってくれるってよぉ…」
ゲンコと同年輩。なので、よく遊んでいた間柄でもあるので、ゲンコに思い入れがある。(→友達以上親友未満?)
ゲンコの記憶の使用具合は、ここ数年のものなので、ヒサシやタタラ、フイゴたちの記憶はある。(恐らくカンナと結婚していることは忘れていたと思われる)
サンキリ 「悪い方向には転ばないとは思うがなぁ…」
ヒサシ 「まぁ、カンナもタテシとしての腕はピカイチだからな。何とかなんだろ」
タタラ 「だと良いが……」
サンキリ 「心配してもはじまんねぇよ。さ、仕事だ仕事。今日も忙しいんだろ」
タタラ 「そうだな…すまない、今日も帰りは遅くなりそうだ…」
サンキリ 「日付が変わる前には帰りてぇなぁ」
ここ最近、日付が過ぎてからの帰宅となっている。

ナレ 「それから三時間ほど経って、ハコビの休憩所にはフイゴの姿があった。
 ゲンコの見舞いに行った後のようだが、どうも憤然としたようすである」
ヨク 「フイゴよぉ、まーだ怒ってんのかい」
フイゴ 「……いやぁ、なぁ……俺だって怒りたくて怒ってる訳じゃねぇんだよ」
ヨク 「まぁ、そりゃぁ、誰だって怒りたいから怒るわけじゃねぇさ。たいていの場合はな」
幼馴染であるヨクは、フイゴがここまで怒っている(しかも長引いている)のが非常に珍しい事を知っている。(赤子の時からの付き合いである)
フイゴ 「……」
ヨク 「おめぇの倅どもの事を考えりゃ、怒ることも無理はねぇさ」
チクロとイガタは家族のために死んだと言っても過言ではない。だが、ヴィントは家族に言われたからと言って、簡単にそれを捨てて一人で逃げてきた。
それが気に食わないのだろうと思っている。
フイゴ 「……それもあるが、俺が怒ってんのはそう意味じゃねぇのさ」
ヨク 「ほんじゃ、どういう意味だ」
煙草の煙を吐き出す。いつものフイゴであったらこうして話を聞いていれば怒りは収まる。
フイゴ 「……いや、な。 …なんっつーか、見ててイラつく」
これもフイゴにとってはかなり珍しい事。基本、フイゴはあんまり人を嫌いにならないので。(のんびりし過ぎててあんまり考えてないとも言えるが)
多分、フイゴも自分の中で起こっているこの怒りが、何が理由なのかが解って居ない。だからヨクに相談しに来たと言うのもある。
ヨク 「はぁ?!」
フイゴ 「少なくとも、この街にはいねぇような奴さ」
ヨク 「ってーと?」
フイゴ 「…だから、俺にもわかんねぇんだよ!…タタラにも、いらねぇ心配させてるみてぇだし…俺もどうしたら良いのかわかんねぇ」
「本当に怒った」という事が人生の中で何度かしかない。多分、この感情が理解出来てない。
ヨク 「いつものおめぇなら、そういうガキ見ると放って置けなくて無条件で引き取っちまうよなぁ」
フイゴ 「あぁ、子供は世の宝さ。未来を背負ってる。俺はその笑顔見てると、幸せな気分になるんだ…」
フイゴを始め、ホムラの子供好きは有名なところ。だがそれを利用されて、ホムラの集落の周りには一時期子供が多く捨てられていることもあった。
→ヴィントは子供と言える年齢ではない
フイゴ 「子供は親を選べねぇ。子供が親を選んで生まれてくるってぇどっかの誰かが言ってたが、
 子供を不幸にするも幸せにするのも親の腕ひとつだ。…ガキを自分で捨てたり殺したりするような親は、親じゃねぇ。
 ただの鬼だ…俺は半分そうなっちまった…いや、もう、なっちまったのかも知れねぇ…」
自分の手を見る。両手が震えている。彼の脳裏に浮かんでいるのは、燃え盛る炎、溶けた鉄に囲まれて微笑む次男・イガタの最後の姿。
戦争で子供を失った後のフイゴは、子供を引き取る事をしなくなってしまった。「自分が鬼になってしまった」と言うことが、頭にあるから。
ヨク 「…フイゴ、もう考えるな!」
フイゴ 「あの時、俺は溶けてくイガタに何もしてやれなかった…ただ目の前で溶けてくのを見てるしかなかったんだ……」
ヨク 「あれはおめぇが悪いわけじゃねぇ!!誰も悪くねぇんだ!!」
実は、フイゴは一時期、本当に落ち込んで自分を責めてしまっていた。その状態から立ち直ったと言う経緯がある。
フイゴ 「だがよ…だがよぉ、イガタはどうして逃げてこれなかったんだ?!
 アイツは俺に言っていたんだ『鉄を打っている親父が好きだ。炉がなくなっちまったら、親父は鉄を打てなくなる』って
 …だから…俺のせいだ…俺のせいでイガタは…!!」
ヨク 「フイゴ!!もういいんだ!戦争が悪いんだ!あれは…何もかも、戦争が悪いんだから…おめぇが気に病む事なんてねぇんだ!!」
フイゴ 「……すまねぇ……ヨク…」
ヨクも子供を二人失っている。自分ばかりが子供を失った訳ではない。自分ばかりが迷惑を掛けて申し訳ないと思っている。

ヨク
(心の声)
『あの戦争は、いろんなもんを俺達から奪って、いろんなもんを悪いように変えていった。
 フイゴはあの戦争以来、変わっちまった。変わるしかなかった奴もいる……戦争は……まだ終わっちゃいねぇ…』

ナレ 「−ニビの工場・一階、第一作業工場−
 工場の中心。どの階からも見下ろせるその作業場は、クミの一族の働く場所である。」
ハンダ 「おい、ボルト!ボルト!なんだい、ネジの締め方はぁ!こんなんじゃ売り物になんねぇぞ!!
 おめぇならもっとちゃんと出来るハズだろが!余裕はねぇだろうが、しっかりしてくれよ?!」
ナレ 「一際大きな怒鳴り声を上げているのは、クミの一族の長・ハンダである。
 老齢にも関わらず、息子達に代を譲ることもなく、頭数の一番多いクミ一族を纏め上げている。
 普段ならば、このような大声を上げる事は、そうそうない事なのだが、生産が追いつかないぐらいになっているために、
 余裕がなくなってきているのだろう。いろいろな意味で、一番忙しい作業工程を担当しているとも言えるからだ」
ハンダ 「ナット!!ナットは居るか!」
ナット 「…はいっ…!」
怒られると思って恐々として出てくる。
ハンダ 「おめぇか!これを組んだのは!」
ハンダの手には、なにやら小型の通信機(大型のソラフネにて、乗組員達がもつ為のもの。トランシーバーのようなもの)がある。
通信は勿論だが、何か異常があった際に鳴らすブザー等も組み込まれている。
ナット 「…そ、そうです…!何か、僕…間違えたでしょうか…じい様」
ハンダ 「いんや。良いもん組んだじゃねぇか。この通信機は乗ってる奴等の命や荷物とかを守るもんだ。
 こんなに回線の置き具合、配線の置き具合…部品の締め具合…どれを取っても良いもんだ」
ナット 「……!」
褒められていることに気づき、嬉しい。
ハンダ 「ナットよぉ、おめぇは良い目と指先を持ってる。おめぇの将来を期待してる。もうちょっと自信もって頑張れよ」
ナット 「はい!!」
ハンダは笑顔でナットの肩を叩く。ナットも嬉しそうに頷く。と、そこに闖入者。
スパナ 「ちょっと、なんなんだいアンタ!!」
ヴィント 「いやー、ちょっと人に会いたくてさぁ。ジオって人に会いたいんだけど、お姉さんしらねぇ?」
スパナ 「見てわかんないのかい仕事中だよ!!帰っとくれ!今それどころじゃないんだから!」
ヴィント 「そこを何とかさぁ。俺だってワザワザ、ロギザから来てんだからさぁ〜」
スパナ 「なんと言おうとココは通さないよ!!さぁお帰り!ロギザでもどこへでもね!!」
ハンダ 「どうしたよ」
スパナ 「父さん。なぁに、こいつがね。ジオに会いたいってさ」
ハンダ 「おめぇ、ジオに会いに来てどうしようってのかい。あいつぁ仕事終わるまでその場から動こうとしねぇし。
 こっちが何言おうと、応えはしねぇぜ。それでなくとも今は忙しいんだ。帰りな」
ヴィント 「いやー、大丈夫大丈夫、俺そういうの気にしないからぁ!」
スパナ 「気にしろよ!!」
ヴィント 「で、ジオって人どこに居んの?俺、早く会いたいんだけど」
ハンダ 「しょうがねぇなぁ…スパナ!!おい、スパナ!!」
スパナ 「なんだい、そんな大声出さなくても聞こえてるよ。父さん」
ハンダ 「あぁ、そうだなぁ…おい、ジオんとこ連れてってやれ。そうすりゃ諦めて帰るだろ」
ケンビ 「わかった…行くよ、坊や」
ヴィント 「はいはい、待ってました〜」
ハンダ 「あと、飯もってってやれ。あいつまた食ってねぇだろ」
スパナ 「あいよっ」

−地下三階Dエリア第5作業場−
ここはクミの一族の中でも限られたものしか入る事の出来ない作業場。(ジオペ専用とも言える)
地下三階のDエリアには、人の姿がなく、ただ組み立て済みの大型機械や古いソライスなどが静かに並んでいる。
ジオペの趣味なのか、それとも倉庫の代わりなのか、古いものもかなり置いてある。
ヴィント 「うおっ、すげぇ!これ…30年ぐらい前に使われてたクウZ-29号じゃねぇかぁ!」
スパナ 「あぁ、あんた…こういうの詳しいんだ」
ヴィント 「うっは!しかもクウシリーズに光速加速装置がついてた頃の…Zの初期型じゃねぇかよ!
 まさかこの目で見れるって…なぁ、ねえちゃん、これ動く?動く?まだ動くのか?現役?」
スパナ 「ジオが趣味で直した奴だからね…ここいらにあるもんは、たいてい動くさ」
ヴィント 「うっはぁ〜、すっげぇなぁ…やっぱニビの街来てよかったわ〜…こんなん、今じゃビンテージ物だぜ?」
スパナ 「まぁ、それが解る人がいるって知ったら、ジオは喜ぶだろうけど……あんま触らないでよ?あとでジオ、怒るからね」
ヴィント 「解ってるって!…うわっ!こっちにはソラフネ積載用通信機ヨビ−0418号5型もある!!
 これオークションで出たらウン百万の代物だぜぇ?」
スパナ 「ココはジオのお城だからね。ほら、あんたジオに会いに来たんだろ。さっさと来な!」
ヴィント 「はいはい〜」
ナレ 「その奥の扉。分厚く、他者を拒むように、硬く閉じられている」
スパナ 「ジオー、スパナ姉ちゃんだよ。お客さん連れてきたからね、入るよ」

ナレ 「−ジオペの城−
 そこは20畳ぐらいの空間であろうか。中央には、100インチはあろうかと言うモニターがあり、
 その下には機材がたくさん繋がれている。周りにも大中小のモニターや様々な機器が転がっている。
 奥の方にあるテラスには特大サイズのソラフネに積載する為の物と思われる機械が、組み立ての途中で置いてある。
 そこからコードが延びており、モニターの画面ではプログラミングを行っているようである。その作業も何も迷いはなく、早い。
 そのモニターの前にはイスがあり、そこに半分組み込まれるような形で、この「城」の主が座っている」
ヴィント 「アンタがジオさん?」
ジオペ 「……」
ジオペは作業中、全神経を全て注ぎ込む。その為にこうして話しかけられても、彼の耳には聞こえているのだろうが、反応はしない。
ヴィント 「ねぇ、俺さぁ、ロギザから来たヴィントって言うんだけどさ」
ジオペ 「……」
ヴィント 「ここ何年かの、この街で作られたソラフネとかは、全部アンタが調整してたんだな」
ジオペ 「……」
ヴィント 「何とかいえよ」
ナレ 「ヴィントが、ジオペの肩に手をかけようと動いた瞬間、その間に、素早くスパナが割ってはいる」
ヴィント 「なんだよ!」
スパナ 「今は仕事中なんだ。あんまりジオを刺激するな!」
ヴィント 「は?」
ナレ 「ヴィントには理解ができなかった。話に来たのに、何故相手がこちらに興味を示してくれないか。
 しかし、スパナが二人の間に割って入ったのには理由がある。
 全神経を機械に集中しているジオに何らかの刺激を与えると、彼はパニックに陥ってしまい、
 しばらく収拾がつかなくなってしまうのだ」
ジオペ 「……」
チラッとヴィントの方を見はするが、すぐにモニターの方に視線を戻す。
スパナ 「無駄だよ。自分の気の済むまで終わらないから」
スパナは、自分の好きな事を好きなだけやれる…そうしているジオが愛おしいと思っている。
ヴィント 「はー?話になんねぇじゃんよ」
スパナ 「それを承知で来てんだろ。あんたも」
ヴィント 「…つまんねぇ…人が来てんのに、失礼だろ」
スパナ 「しょうがないよ、ジオだから」
ヴィント 「あんた等はそれで平気なのかよ」
スパナ 「ジオはジオ。他に何者だって言うのさ」
ヴィント 「……なんかさぁ、こう、もうちょっとさぁ」
スパナ 「人と話をしろっての?」
ヴィント 「そうだよ」
スパナ 「…あんたさ、世の中の人間、みんながみんな、アンタと同じようにベラベラ物を喋れると思ってんのかい?」
ヴィント 「どういう意味だよ…もしかして、喋れねぇのかよ…聞いてねぇぞ」
スパナ 「ジオだって喋るさ。ただ、こうして機械と遊んでるときには、機械としか喋る事が出来なくなるだけ。一途って奴だよ」
ヴィント 「じゃぁ、俺と喋るのもわけないじゃないか」
スパナ 「アンタ…自分で会いたいからココに来たんでしょ。『仕事中はジオは反応しない』って、父さんも言った筈。
 だから私はここに連れてきた。それでアンタは何の文句があるんだい?」
ヴィント 「俺は話し合いがしたかったんだ!」
スパナ 「んなこと、一言も言ってなかったろ。手前勝手な都合だけでこの世のなか廻りゃぁ、世話ないさぁ」 
ヴィント 「……」
スパナ 「ジオと話がしたいんだろ?アンタのそういう考えで、ジオに話しかけても、多分普通にしてるときのジオも話には乗らないと思うよ」
ヴィント 「…どういう言う意味だよ」
スパナ 「さぁね、それぐらい自分で考えたらどうだい」
ヴィント 「おい!アンタ、今の話聞いてたよなぁ?!」
ジオペ 「……」
ヴィント 「おいってば!!」
ナレ 「ヴィントが肩を掴んだ瞬間、ジオペは椅子から転げ落ちてその場にひざを抱えて蹲ってしまった。
 動くこともできず、ただ目を硬く瞑ったまま震えている。
 スパナは弟に寄り添い、背中から抱きしめている。ジオがパニックに陥ったときの対処法のひとつなのだ」 
スパナ 「ジオ、大丈夫だよ。…ヴィント、あんたは今日のところは帰りな。悪いけど、今日は話ができる状態じゃないんだ」
ナレ 「しばらくすると、ジオペは気を持ち直したのか、再び椅子に座り、機械に身体を固定すると、作業の続きを始めた。
 モニター上には、およそ常人では考えられないほどの速さでプログラミングが行われている事が示されていた。
 …だが、そのような業を見せながらも、ジオの表情は、まるで子供がおもちゃで遊ぶかのような無邪気な笑みを浮かべていた」
ヴィント 「……」
ジオに拒絶されたのはショックだが、その神業は認めざるおえない。
スパナ 「今は何を言っても無駄なんだ。私等家族が何を言っても、ジオの耳には入っちゃ居ないさ。
 日を改めて、もう一度出直しな。それまでにはジオにアンタの事聞かせとくから」

ナレ 「日も暮れて、タタラは家路を急いでいた。
 この所、だいぶ遅くならなければ帰れなかったので、これでも早く帰れたうちに入るだろう。
 今日は、昼頃にサンキリの妻や、一族の女達が持ってきた差し入れが手土産だ」
タタラ
(心の声)
『よかった…今日は早く帰れたぞ…休みの前も、遅く帰ってたから、なおさら母様に心配もかけてたし……
 父様はもう、うちに帰ってるだろうか……今日の差し入れは鴨の蒸し焼き鳥だな。エンが居たら喜びそうだが……
 あとでヨビフミでカガミエを送ってやろう……あいつ等、ちゃんと食べてるかなぁ……」
ナレ 「いろいろ考えながら、タタラは歩いていた…と、ホムラの集落に程近い橋、膝を抱えて水面を見つめているヴィントの姿があった。
 …どうやら落ち込んでいるようである」
タタラ 「…ヴィント、どうした」
隣に腰を下ろす。
ヴィント 「……」
いろいろあってやさぐれて居る。
タタラ 「……お前、ヒサ兄のソライスをバラしたんだってな…」
ヴィント 「…別に良いじゃん。あの後、元に戻しといたんだし」
タタラ 「よくない…後でヒサシに謝れ。お前にソライスバラされたせいで、仕事にものすごく遅れた」
ヴィント 「一人遅れたぐらいでどうにかなる現場なの。そちらさん」
タタラ 「…そういうことを言ってるんじゃない。ヒサ兄の家は今、大変なんだ。
 ヒサ兄の奥さん…マサゴ姉は赤ん坊が生まれるんだ」
ヴィント 「だから?」
タタラ 「………その容態が思わしくないんだ。お前に取ってはそれは『ソライスをバラした位の事。戻したから別に良い事』だろうが、
 バラされたヒサ兄にとっては一大事だったんだ。その事を解ってくれ」
ヴィント 「……俺には関係ないよ」
タタラ 「関係なくはない。この街に……ホムラの集落に居る以上、お前も家族だ」
ヴィント 「じゃぁ、何ですか。ホムラってのはみんな血が繋がってんのかよ」
タタラ 「あぁ、そうだ。ニビの街は、その職業ごとが、一族ぐるみだからな。同じ仕事をしている…いや、この街全体が家族なんだ。
 だから、誰がこうだから関係ないとか、そう言うのはないんだよ」
タタラは生粋のニビ人。江戸っ子ならぬニビっ子である。この街とこの街の人々を心から愛している。
ヴィント 「はー……」
この街に来たのが間違いだったかと思っている。理想と現実の違いに打ちのめされてる感じ。←今の若者に有り勝ちな投げ出しの原因の一つ。
タタラ 「……今日はどこに行っていたんだ?ニビの街、結構面白い場所がたくさんあるだろ」
気分を変えて、ロギザから亡命して来たヴィントは、追い詰められて心の中も混乱している物と思っている→労わっている。これでも。
ヴィント 「あぁ……小遣い、ありがとな」
タタラ 「いや、いいんだ。どうせお茶代ぐらいにしかならなかったろうし…。それで、楽しめたか?」
ヴィントに渡した額=だいたい1500円ぐらい。 
ヴィント 「タタラの母さんの弁当、美味かった……」
タタラ 「…あぁ、母様の料理は、本当においしいからな。今日の弁当、秋刀魚の生姜煮が入ってたろ」
ヴィント 「……うん、なんか…味が優しかった……」
タタラ 「だろ!私は、母様の料理の中でも、あれが一番好きなんだ!お前も気に入ってくれたんなら、嬉しい!
 作りたてで暖かいと、もっとおいしいんだ!」
ニッコリと笑む。それは普段はしないような笑い方。(まるで戦争前のタタラに戻ったかのよう)
ヴィント 「……」
タタラの顔に見入ってしまう。ぼんやりと。
タタラ 「…どうかしたか?」
ヴィント 「……いや…あのさ、おふくろさんの料理……俺の母ちゃんの作る飯、思い出した……」
ヴィントの心の中。母の微笑と、スープ。父や祖父母、父と祖父の弟子達の笑顔。(だが、ヴィントの本当の家族ではない)
→早くもホームシックか?
タタラ 「……そうか……」
ヴィント 「……」
タタラ 「うちに帰ったら、また食べれるよ」
ヴィント 「……」
涙が零れる。