ニビイロ−第十二話−
『うごく時』

※下に書いてあるのはト書きです。
※アドリブを入れるのは自由ですが、台詞の意味などは変えないでください。
※3番タイムなどに、自分の役の台詞とト書きだけでも良いので、ちゃんとチェックしてから演じてください。
※基本的に、色のついたセルは、ト書きです

(081005完成)


タタラ 20歳前後 「ホムラ」の一族の一人
ホムラの頭領の娘。女伊達等に鍛冶場で働いている。
口調が男っぽいだけで、中身は列記とした女である。
基本的男らしさを意識した感じで喋る。
※できれば、かわいさを取っ払ってください。
 イメージ的には、もののけ姫のサンが近いかも?
フイゴ 40代後半〜50代 「ホムラ」の一族の長
タタラの実父。粗野な言葉遣いや態度ではあるが、家族思いでのんびり者である。
大所帯のホムラ一族を纏め上げる男。人間ではないような巨体。
だが、担当する仕事はロウ付け。(本人曰く「隠居」)
ヴィント 20代中盤
ロギザ出身の亡命者。若き技術者であり、飄々としてはいるが、腕は確かなもの。
つかみどころの無い性格。あんまり物を考えない性格なのか、それとも打算づくなのか、ずけずけと物を言う。
ヴィントの元ネタ「ヴィーント」とは、ロシア語で「釘」の事
あんまり何も考えない、緩めな感じでやってください。今で言うチャラ男?
カンナ 20代後半。タテシ一族の女性。ゲンコの妻。少々気性は荒いが、優しい女性。
ゲンコがツクラレになってからはノコと二人で暮らしている。元々、優秀なタテシ。
今は蓄えと、たまにタテシの仕事をして生計を建てている。
現在ゲンコがツクラレになった事から立ち直って、あんまり悲観もしていない。
ノコ 二歳になる手前ぐらい。
ゲンコとカンナの愛娘。最近おしゃべりになって来た。パパっこ。
ゲンコ 30代前半。タテシ一族の青年。数ヶ月前に事故により両脚を失い、ツクラレになる。
だが、それまでどおり、タテシ一族として暮らしては居るが、
家族(カンナ・ノコ)や今までの記憶は失っている。
子供好きの、穏やかな男性。

ナレ





時代・世界観
舞台背景など
高度科学(高度工学?)と魔法がまだ共存している時代。
舞台となる、工業都市・ニビは、世界でも有数の工業都市。
そこで作られるものは、高評価を得ていた。

その街で暮らすものたちは、ほとんどの職業ごとに、一族に分かれている。
ホムラ一族 フイゴ率いる炎の一族。炎使い。
炎を扱う事に長けており、またそれを生業とする一族。
フイゴの娘、タタラが頭領代理。
フイゴ、チクロ、イガタ、ヅチ、タタラ
ハコビ/ソラ一族 ヨク率いる空の一族。風使い
風を読む事に長けている。空輸、または運搬艇を使った資材運びを
生業としている。
ヨクの息子、エンは、若手のまとめ役。
ヨク、エータ、エン、フウ、リフ
タテシ一族 ナグリ率いる土の一族。土使い
大工仕事や建設、いわゆる「建てる事」を生業とする一族。
ゲンコは、この中でも期待されている若手。
ゲンコ、カンナ、ノコ、キリ
ミナモ一族 老翁・ソウ率いる水の一族。水使い
ニビの街の水源、ダム等を司る一族。
次期頭領候補であったソウの息子・ミナカミの死により、内部で荒れている。
ミナカミ、シズク、セキ、ミナワ
クミ一族 ハンダ率いる一族。ニビの街の産業を支えている一族。
あらゆる機械の組み立て作業を生業としている。皆、手先が器用。
自然由来の魔法は使えないが、あらゆる道具を「操る」能力を使う。
ジオペ
モグラ一族 ハシ率いる闇の一族。ニビの街で使われる鉄などの材料、鉱石などを採取する一族。
暗闇で目が利く特殊能力がある。(闇の中で自由に活動する)
若干、地上の世界のもの達と触れ合う機会が少ない。
オサメ一族 所謂、私達の世界では役人と言う役目を担っている一族。
ニビの街の商業取引なども、この一族が行っている。
どちらかと言うと、職人気質の人間が集まるこの街では異質の存在かもしれない。
ソラフネ 飛行機のようなもの。空を飛ぶ船。
ニビの街では、これや準ずる物を盛んに作っている。
兵器等を積み込んだ"戦艦”も作られる。
ソライス
(エアースクーター)
ソラフネと同じ構造で、空を走る。
見た目はバイクのタイヤが無いバージョンみたいなもの。
エンもよく乗っている。
ツクラレ いわゆるサイボーグ。
四肢を亡くした者は、その代わりに機械義肢をつけられるが、
痛みを取り払い、すぐに機械義肢を元の身体のように動かせる代償として、記憶を奪う。







ナレ 「ニビとエンが旅立って、二日が過ぎた頃。
 街では、『あの日』の犠牲者を弔う祭りが行われようとしていた。
 その間にも、北の大国ロギザに、リューモウ・アセキハ両軍が攻め入り、戦いが激化しているという情報が、
 ニビの街には聞こえてきていた。例えテレビのようなものがなくとも、ソラフネやリクフネ、
 その他の武器を作っているこの街には、嫌と言うほど情報は多いのだ」
タタラ 「それじゃぁ、母様、親父殿、いってまいります」
ナレ 「タタラは、両親に挨拶をして家を出た。
 ここ何日かは、父とエンの父・ヨクや仲間たちの勧めもあって、強制的に休みをとらされている状態。
 無理やり取らされたとは言っても、どうやら休みを満喫してはいるらしく、私服姿で今日もどこかに出かけるようだ」
フイゴ 「おーう、気をつけていけよ〜、カンナとノコによろしくなぁ!」
外で植木の枝を剪定している。(実はガーデニングが趣味?)
タタラ 「あぁ、解ってるよ、親父殿」
フイゴ 「あと」
タタラ 「ゲン兄にも、だろ?」
フイゴ 「あぁ、そうだ。気をつけて行ってこいよ。あと門限までには帰れよ」
タタラ 「解ってる…じゃぁ、いってまいります」
実を言えば、結構タタラは箱入り娘。父・フイゴはかなり過保護。だが、タタラはそれを嫌ではないし、むしろ父が心配してくれるのが嬉しい。
 タタラの手には、母が作った菓子の入った包みが抱えられている。
ゲンコの妻、カンナとその娘・ノコの元に遊びにいくようだ。タタラにとってはゲンコは実兄と同じような感覚。(フイゴ夫妻にとっても我が子同然)
なので、ゲンコがツクラレになる以前から、よくこうして、カンナたちのところに遊びにいく。
〜道の途中〜
タタラ
(心の声)
『今日はよく晴れてるなぁ…こんな日には兄様たちがいた頃には、釣りに連れてってもらったものだけど…
 母様、今日はどんなお菓子を作ってくれたんだろう…昨日のも美味しかったなぁ…私も、お菓子作りでも教わろうかな…』
タタラも『女の子』である。
普通だったら、嫁に行ってもおかしくは無い年齢(多少早いが)、今まで鍛冶場にばかり居たので、実は料理があんまりできないのである…が、
この休みで、カンナと話したりしているうちに、ちょっと思うことがあったのか(?)
タタラ
(心の声)
『エンとニビ、うまくやってるだろうか………きっと、はしゃいでるんだろうなぁ……<兄様>は…』
ナレ 「あれやこれやと、タタラは思いながら、タテシ一族の集落へと向かっていた。
 …その道すがら……ふと、土手の横を見ると、男が一人、うつぶせに倒れていた。
 少々汚れているが、怪我は無い様で、どうやら行き倒れのようである。その横には見慣れない…
 ニビの街では作られていない型のソライスが少しの荷物を積んで止まっていた」
タタラ 「…?!」
タタラ
(心の声)
『…こんなところで…まさか………死人!?』
タタラ 「大丈夫ですか?!おい!おい!!」
ヴィント 「……ん…んー…」
なんか、寝言でアドリブ入れても可。
タタラ 「…良かった、息はあるようだ……大丈夫か!?口は利けるのか?」
ヴィント 「……ん…?」
目を覚ます。ここら辺じゃ見ない、銀髪に碧眼の男。
タタラ 「大丈夫ですか?こんなところで…」
ヴィント 「んー……あんた、誰?」
胸元をボリボリ掻きながら起き上がる。
タタラ 「……あなたこそ…大丈夫ですか?」
ヴィント 「んー…あぁ、ココはニビの街…でいいんだよな?」
タタラ 「そうですが…」
ナレ 「タタラは内心、かなり困っていた。
 まったく、要領を得ないのだ。目の前の男との会話が…
 まぁ、無事そうで何よりだとは思っていたが…」
ヴィント 「え…マジ?やった…!!俺、やっとでニビの街にこれたんだ!!うそじゃねぇんだよな?!」
いきなり喜ぶ。そして、タタラに抱きつく。
タタラ 「……!?」
(SE:乾いた平手の音)

タタラ 「……落ち着きましたか」
ヴィント 「…はい」
男の左頬には、タタラにつけられたモミジが赤々と残っている。
タタラ 「いや、すみません。いきなりだったもので…」
ヴィント 「なぁに、こっちもこっちで、いきなり抱きついて悪い悪い」
タタラ 「で、あなたはどちらから…どうやら、この街の人間ではなさそうですが」
ヴィント 「あぁ、俺はロギザから来たんだ」
タタラ 「……ロギザ!」
ヴィント 「いやぁ、ロギザもちょっとやばい事になっててな。
 俺が居たところもちょっとそりゃねぇよって感じになっちまったから、とっとと逃げて来たってわけだ」
タタラ 「……なるほど…で、何故ニビの街に?」
ヴィント 「まぁ、どうせなら工業技術が発達してるこの街で、新しい技術でも学ばして貰おうって思ってな」
タタラ 「そうですか」
ヴィント 「っていうか、兄ちゃんよ」
タタラ 「……私……女です、一応」
ヴィント 「……ごめん」
ものすごく、気まずそうに。
タタラ 「いや…良いんです…気にしてませんから…」
と、言いつつも若干気にはしている。
ヴィント 「あぁ、そういや、さっき抱きついたときに良い匂いしたもんなぁ…あと、胸…」
(SE:乾いた平手の打撃音)
ヴィント 「…すんません」
右頬にも、モミジができている。
タタラ 「…いえ」

ヴィント 「俺は、ヴィントって言うんだ。嬢ちゃんの名前は?」
タタラ 「私は、タタラ……この街の製鉄所で、鍛治をしている」
ヴィント 「ホムラ一族か!」
タタラ 「ホムラ一族をご存知なのですか?」
ヴィント 「いやー、知ってるも何も、職人連中の間じゃ知らねぇ奴ぁモグリだろぉ…ってか、嬢ちゃんよ。
 そんなかたっ苦しい言葉じゃなくても、普通に話してくれてかまわねぇぜ?
 どうせ、ココで世話になるんだろうし、なげぇ付き合いになるだろうし」
タタラ 「……あぁ」
もうここで暮らす事を決めているヴィントを、半ばあきれたように見ている。
ヴィント 「…まぁ、なんだ。ホムラ一族って事は……チクロの親戚か?」
タタラ 「チクロ……兄を知っているのか?!」
ヴィント 「知ってるも何もさ、チクロは俺の親父のところに、もっと良質の鉄を作る方法ってのを研究しに来てたんだぜ?
 もう、十何年前になるかねぇ…まだ俺がガキの頃の話しなんだけどよ」
タタラ 「……兄様、ロギザに行ってたんだ……」
長兄が旅に出た事は知っていたが、タタラは幼すぎたので、チクロがどこに行っていたかは知らない。
ついでに言えば、あの日の事に関する事を、誰も話したがらないので、知らなかった。
ヴィント 「ま、たった2週間だったんだけどよ…」
タタラ 「……この街で、戦争が起きたからな……」
ヴィント 「チクロはどうしてる?俺の親父が会いたがってたぜ?」
タタラ 「………」
首を横に振る。
ヴィント 「………そうか…チクロ、死んだのか」
タタラ 「……兄様は…戦争が起きたからって、急いで戻ってきてくれた」
ヴィント 「あぁ…あの時な、故郷の友達からポーチタ…えーっと…こっちの言葉じゃヨビ…」
タタラ 「…ヨビフミ…か」
ヴィント 「あぁ、そう、それだ。それが来て、急いで俺の親父に話して出てった」
タタラ 「…兄様は…来てくれたんだ。そして、瓦礫の下に居た私と、末の兄…ヅチ兄様を助けてくれた」
ヴィント 「いつもお前らの話し、良くしてくれたぜ。俺ぐらいの弟がいるってよ。可愛がってもらった」
タタラ 「イガ兄様とヅチ兄様と同じぐらいだものな」
ヴィント 「親父もさ、あんたの兄貴の事、気に入ってたんだ。短い間だったけどよ。
 親父には何人もの弟子が居たんだがな。その中でもチクロは、昼も夜もねぇくらい、一生懸命勉強してたぜ。
 毎日毎日、夜遅くまで親父の書庫でたくさんの書物とにらめっこしたり、親父とじいちゃんや他の奴等と、議論したりな…」
ヴィントの実家は、ロギザでも随一の機械工場である。
タタラ 「……兄様…」
兄の出て行った理由は知っていた。が、そこまで一生懸命やっていた事を、タタラは知らなかった。
ナレ 「長い沈黙が訪れる。出会ったばかりの二人の共通の話題。それは互いの心の深いところにあるものだった」 
タタラ 「兄様は、私とヅチ兄様を助けてくれた……最後に見たチク兄様は笑ってた……
 だけど、私達を病院に運ぶとき、リクフネに撃たれて……」
最後の方は、生前の兄の笑顔、兄弟四人で仲良く過ごしていた日々が思い出されて、涙が止まらない。
ヴィント 「……『俺が死んでも、弟達が居る。俺はその礎となる事も構わない。むしろそれで本望だ』って…あいつ、言ってた。
 出てくとき…俺の母ちゃんが止めたらさ」
タタラ 「…兄様っ…!!」
ヴィント 「……まぁ、辛気臭い話はここまででさ。良かったらあんたんち連れてってくんない?アンタやチクロの親父さんにもあってみたいしさ」
タタラ 「そう言う事なら。ちょうど良い、今日は工場が珍しく休みだから、親父殿も家に居る…チクロ兄様の話をしてやってくれ。
 きっと喜ぶ…父様も母様も」
ヴィント 「つか…俺、腹減ってんだ。ここ何日かまともに食ってねぇからなぁ…。
 さっきからその包みから良い匂いがしてんだけどさぁ。ちょっとくんない?」
タタラ 「あ…」
その包みは、カンナとノコに届けるはずのお菓子である。
ヴィント 「まさか、それ、どっかに届ける奴だったとか?」
タタラ 「…ちょっとまて…えーっと……」
包みを開いて確認する。中身は……蒸しパンのようなもの(ガンヅキとかそんなん)が、重箱のような四角い箱に、敷き詰められているもの。切り分けようにも刃物が無い。
ヴィント 「うまそー!!」
その箱に飛びつこうとする。
タタラ 「待て!半分だ!!半分だけだ!!半分だけなら食って良い!」
ヴィント 「けちー!!」
タタラ 「ケチじゃない!!…小さい子が、お菓子を待ってるんだ」
ヴィント 「…なら仕方がねぇ」
タタラ 「先にその用事が済んでからな」

-タテシ一族の住む集落-
ここは、大工仕事、土木作業などを生業とする一族のすむ集落。
ゲンコたちの家もここの中にある。
カンナとノコの暮らす家は、ゲンコがツクラレになる前に一緒にすごしていた家。集落の端の方。
カンナ 「あら、タタラじゃないか」
タタラ 「カンナ姉様、母様がこれ」
カンナ 「いつも悪いわねぇ。さ、中入ってお茶でも飲もう。ちょうど昨日、美味しいの買ったばっかりなんだ」
カンナも、タタラと同じように男兄弟に女一人と言う家族構成。タタラは妹のような存在。
ノコ 「たーらねーちゃ、たーらねーちゃ」
まだ、タタラの名前が言いにくいらしい。
だが、懐いていて、遊んでくれと足元でうろちょろしている。
カンナ 「ほら、ノコもあんたが来るの、待ってたんだからね。ゆっくりしてきな」
タタラ 「カンナ姉様…あのさ…ちょっと、お土産、半分になっちゃうんだが…」
カンナ 「へぇ?」
ヴィント 「こんちわー」
カンナ 「なんだい、見かけない顔だねぇ。どうしたんだい、これ」
タタラ 「…拾った」
カンナ 「拾ったって…あんた、面倒見切れるの?!拾った場所に返してきな!」
まるで犬か猫でも拾ってきたように。
タタラ 「でも、姉様!」
カンナ 「あぁ、悪い…こないだノコも猫拾ってきてねぇ…まぁ、立ち話もなんだから入りな」

カンナとノコの家は、ゲンコとカンナが建てた家。
ツクラレになる前、二人が結婚する際に、自分で建てた。
間取り的には2LK。タテシ一族の結婚の儀式であり、「ケーキ入刀」みたいな感じ?(二人の最初の共同作業?)
ナレ 「とりあえず、遥々ロギザから亡命してきたと言うヴィントを憐れに思ったのか、カンナは食事を出してやった。
 それを貪るように口に運ぶヴィント。結局は、タタラが代わりに説明した」
カンナ 「で、アンタ、何だってそんなところに倒れてたんだい?」
ヴィント 「………いやー、あの、ロギザで…この煮物ウマい!…ちょっとまって…食ってから…お代わりある?」
カンナに出された食事を、物凄い勢いで頬張りながら。本当にしばらく食べて無かったようで、物凄い勢い。
タタラ 「姉様、こいつはこの街の男共よりもさらにマイペースだ」
カンナ 「…みたいだねぇ。まぁ、まだいっぱいあるから、たくさん食べな」
ヴィント 「こんな美味い飯食える旦那さん、幸せだよなぁ…」
カンナ 「あはは、そうだねぇ。あの人もいつもそう言ってたよ」
ニコニコ笑っている。ツクラレになる前のゲンコを思い出している。ヴィントの姿が、ゲンコに重なる。
ヴィント 「で、旦那さんは?ってか、旦那さんってすっげぇ幸せもんだよなぁ…美人で料理上手の嫁さんと可愛い嬢ちゃんが居て…
 今仕事行ってんの?なんか留守中に悪いねぇ」
壁にかかっている、家族写真を見て。
タタラ 「ヴィント…」
ヴィントは事情を知らないので何の気なしに言うが、自重しろと言うようにため息を吐く。
ヴィント 「……?」
何かまずい事でも言ったのかと言う顔をしている。
カンナ 「そうねぇ、あの幸せ者は今日もどっかで仕事してんじゃないかしらね。仕事が好きな人だから」
ヴィント 「旦那さんは何してんの?」
タタラ 「お前、ホムラ一族は知ってて、タテシ一族は知らなかったのか」
物凄く、意外そうに。
ヴィント 「んー…だって、俺の専門は、この街で言えば『クミ一族』の仕事だからな。それに関係する事以外……って言うよりも、
 俺んとこは、結構鎖国状態みたいな感じだから、他の国の情報なんてほとんど入ってこねーの。
 チクロが俺んち来てなきゃ、ホムラ一族だって知らなかったぜ?多分。この街で作ったソラフネとかは、よく修理したりしてんだけど」
ナレ 「ロギザと言う国は、大小多くの連合国家からなる国、ロギザ連合国と呼んだほうが正しいのかもしれない。
 世界で一、二を争うほどの大国ではあるが、多数の民族が集まっているからか、それぞれの価値観や思惑の違いで、
 連合内での内乱は絶えない。だが皇帝・ヴリヤーニエ 三世の統治により、それは目立たぬものとなってはいる。
 また、ヴィントの言うとおり、情報官制が敷かれており、滅多な事では外の国の情報が入ってくることが無いのである」 
カンナ 「ロギザってのは大変な国だってのは、ここでこうしてるあたしらのところまで聞こえてきてるからね…
 亡命してくるぐらいなんだから、そりゃ大変だったんでしょ」
ヴィント 「いんや?外の国の人らが思ってるより、中に居る人等って、意外に鈍いもんよ?っつか、それが当たり前の事になっちまって、
 だーれも気にしてなかったりするんだよね。台風の目の中は意外に静かって奴で」
カンナ 「そんなもんかしらね…だけど、そうかも知れないわね」
周りが心配するほど、カンナも自分の状況を悲観しているわけではない。→ノコを育てる事、手に職がある事、そしてゲンコがいつかは戻るだろうと言う希望。
タタラ 「ヴィントはこれからどうするんだ…?」
ヴィント 「ん?これからって?あー、タタラのおやっさんに会いに行くさ」
タタラ 「いや、そうではなく」
ヴィント 「んー…あぁ、この街でどうしたいかって事か?」
タタラ 「そう」
ヴィント 「その話といやぁお二人さん、クミの一族に知り合い居る?出来れば、一番腕が良い人と話したいんだけどその人と話させてくれよ。
 タタラのおやっさんに会った後で良いからさ」」
カンナ 「一番腕が良い…と言えば、ジオの事だわ。だけどね、会いに行ってもいいけど、アンタで相手になるかしらねぇ」
カンナ、チクロ、ゲンコ、ジオペは幼馴染である。よくジオもカンナをたずねて来たりもする。仲良し。
ヴィント 「頑固ジジイってやつ?大丈夫だよ、俺、そう言うの得意だから!」
タタラ 「いや、ジジイではない。チクロ兄様と同い年だ」
カンナ 「ちょっと変わり者なんだよ。アンタ以上に」
ヴィント 「変わり者?どんなんよ?」
タタラ 「取り合えず…お前はジオ兄様を怒らせそうだからなぁ…」
ヴィント 「はぁ?怒らせるって、どんなに短気よ」
カンナ 「だから、変わり者だって言ってんでしょ…まぁ、会ってみれば良いんじゃないかしら。
 ただし、気をつけなければならないことが幾つかあるけどね」
ヴィント 「ま、心配しても始まんないでしょ。案じるより団子汁ってね。奥さん、お代わり!」
カンナ 「…ほんっと…よく食べるわねぇ…まぁ、いいんだけど…」
苦笑する。実際、なべの中は空になっていた…。
タタラ 「少しは遠慮って言葉を知らないのか!ヴィント!!」
ヴィント 「だって奥さんのメシ、美味いんだもん」
カンナ 「タタラの母さんなんて、あたしよりも美味しい料理作れるわよ」
ヴィント 「本当か?!」
タタラ 「…お前、本当に亡命者か?」
もうちょっと憔悴してたりしないものなのだろうかと、タタラは思う。

ナレ 「それから二時間後、タタラとヴィントの姿は、ホムラの集落…タタラの家の茶の間にあった。
 ヴィントとタタラの目の前には、渋い表情のフイゴの顔。二人が家に着いてから、ずっとこの状態だ。
 タタラとフイゴの間には気まずい雰囲気が流れていた」
フイゴ 「……」
タタラがいきなり連れてきた男を凝視している。ヘラヘラしているのが気に入らないらしい。
タタラ 「あ…えーっと……親父殿?」
普段のんびり屋で温厚な父が珍しく不機嫌そうにして居るので、気まずい…と、言うよりも怖い?
フイゴ 「いや…タタラ、話は良く解った」
ヴィント 「やっぱチクロのおやっさんっすねぇ。そっくりだぁ」
フイゴ 「倅が世話になったってぇ話しは良く解った。おめぇの親父さんに直接会って礼を言いたい」
ヴィント 「いやぁ、生憎親父も工場の仕事が忙しくて、こっちには来られねぇんっすよぉ」
フイゴ 「…で、おめぇは亡命ってか」
フイゴが不機嫌なのは、ヴィントの態度だけではない。他にも仲間が居た筈であろうに自分だけで逃げてきて平然とした表情なのが気に入らないのだろう。
ヴィント 「えぇ、親父が逃げろって言ったんで」
フイゴ 「……そうか、まぁ、それは父親として当然の言葉だろうな。だがよ。
 そう言われたからと言って、はいそうですかと故郷を捨てて自分一人でさっさと逃げてくる阿保が何処に居る」
ヴィント 「戦闘とかそんなんは、まだ起こってないんですがねぇ。まぁ、そろそろヤバめだったんで」
フイゴ 「………」
さらに不機嫌そうに、タバコの煙を吐き出す。
タタラ 「…父様?」
フイゴ 「……ヴィント…とか言ったか、せっかくロギザから逃げてきたってぇこったから、すぐに出てけとはいわねぇ。
 うちにしばらく住みゃぁ良い。だがよ、俺はてめぇを気に入って置いてやる訳じゃぁねぇってぇ事忘れんな」

ナレ 「夕方、ニビの街のとある公園。タテシの集落内にある公園。
 日が沈みかけているにも関わらず、ノコは砂場で一人でぬいぐるみ相手に遊んでいる。もう、公園にはノコ一人しか居ない。
 あの後、カンナは仕事に出かけてしまい、ノコは大好きな公園で遊ぶ事にしたらしい。まだ2歳にも満たないが、自立心は強い。
 よほど遅くなれば、カンナの実家に行くよう教えられているが、大体夕方にはここに迎えにくるので、
 ここでこうして待っているのが日課である。こうして、子供を一人で置いておくことが出来るのも、各一族で成り立っている
 この街の特徴でもあろう。基本的には、この街では犯罪の心配はほとんどないのだ」
ノコ 「とーちゃ、ノコ、ごはんよぉ」
おままごとをして遊んでいる。どうやら、母であるカンナを模倣。「父ちゃん、ノコ、ご飯だよ」と言いたいらしいがはっきりした発音はまだ出来ない。
ノコ 「ノコ、ごはんよ、いっしょ、たべる、ねぇ」
大きいほうのぬいぐるみに、小さいぬいぐるみを抱かせる。こちらは父・ゲンコの模倣?「ノコ、ご飯だよ、一緒に食べようね」と言いたいらしい。
ノコ 「いたらきま」
「いただきます」のつもり?
ゲンコ 「どうしたんだい、こんな時間に」
どうやら仕事帰りのようで、大工道具を肩に担いでいて仕事着姿。一人で遊んでいる子供が居るのを見て、心配して近寄ってきたらしい。
ノコ 「とーちゃ!」
目を輝かせ、ゲンコの脚に抱きつく。長く留守にしていた父が迎えに来たものだと思っている。
ゲンコ 「…?母ちゃんはどこいったんだい」
理解出来て居ない。
ノコ 「かーちゃ、お仕事」
ゲンコ 「あぁそっかぁ…じゃぁ、しばらく一緒に遊ぼうか」
ノコ 「うん!」
二人、砂場でおままごとを始める。
ノコ 「とーちゃ」
「父ちゃんの役」言いたいらしい。
ゲンコ 「うんうん」
ノコ 「ノコ、かーちゃ」
ゲンコ 「君の名前はノコちゃんかぁ」
同じ集落に居たのだが、知る事はなかった。
ノコ 「とーちゃ、おかりー」
「とうちゃん、おかえりー」
ゲンコ 「『ただいま、今日のご飯はなにかな?』」
ノコ 「きょー、とうちゃすき、さばだいこ」
母の言葉を真似?
カンナ
(回想)
『今日はあんたの好きな、さばと大根の煮込みだよ』
ノコを抱えたカンナ。まだノコはおしゃぶりをしている。まだ一歳になるかならないか位か。
ゲンコ 「…?!」
ナレ 「一瞬、見知らぬ記憶がゲンコの脳裏にチラついた。それと同時に、両脚のツクラレの部分に激痛が走る」
ゲンコ 「…くっ…あっ…」
カンナ
(回想)
『お疲れ様、もう少しでご飯出来るから、先にノコと一緒にお風呂入っちゃって。汗かいたでしょ』
カンナの笑顔。
ゲンコ 「……これは…何なんだ…!!」
ノコ 「とーちゃ、とーちゃ?!」
いきなり父が頭を抱えて蹲ったので心配している。
ゲンコ 「なんなんだ…なんなんだ!!…ノコ…さばの煮物……カンナ………?!」
ノコ 「とーちゃぁ、とーちゃぁ!」
ナレ 「激痛に苦しみながら、ゲンコはのた打ち回る。
 頭も割れるように痛い。彼にとっては見知らぬ記憶が、渦を巻いて今、湧き出してきているのだ」
他にもたくさんの記憶。
戦争、チクロの死、瓦礫の下のタタラとヅチ。焼けた街、チクロと語り明かした夜。少年時代、ジオ・チクロとともに悪戯をしてフイゴに怒鳴られ拳骨食らわされた時。
花嫁衣裳のカンナ。ノコの誕生。ノコと遊んでいる記憶。三人で旅行に行った記憶。ノコが熱を出した時に雪の中背負って病院まで走った記憶。
幼い頃のタタラとヅチ、エン、フウ、エータと遊んでいる記憶。イガタと派手に喧嘩した記憶。初めてタテシの仕事をして認められた日の記憶。
父の墓標の前、一人で泣く幼い頃の記憶、フイゴに拾われて家族のように過ごした日々……
ゲンコ 「あぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」
ナレ 「ゲンコの両脚…太股からツクラレの証である義足が外れ、そこからは大量の血が噴出した。
 夕焼けに赤く染まる公園に、さらに赤いものが広がる。その血で身体を汚しながらも、
 ノコは痛みに喘ぐだけとなった父に寄り添っていた」
ノコ 「とーちゃ、とーちゃ、いたいいたい?」
ゲンコ 「…ノコ………大丈夫だよ、ノコ」
ノコ 「とーちゃ、あんよ、いたい、いたい」
ゲンコ 「ノコ、ごめんな…お前にまで心配かけて…」
ナレ 「両腕に、愛娘を抱きしめ、ゲンコは涙を流した。彼は、自分の記憶を取り戻したのだ。
 そして、その後ろ……仕事から戻ってノコを迎えに来た、彼の妻・カンナが、涙を流してそれを見ていた」